公的資金で株価を左右するな

大穴があいたら誰が責任をとるのか

 株式市場は1万9000円台と絶好調です。株価は景気を先取りするとも言われますが、いったい誰が株を買っているのか。昨年春から個人投資家は売り越し、今年に入り、海外の投資家も売りに転じたというのに。

 なぜ株価が上がるのか。それは、信託銀行が大幅に買っているからです。信託の買いの大部分はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の資金です。公的なお金による官製相場が形成され、株価は景気を先取りすると言い切れなくなりつつあります。例えば、3月11日の日経平均は前日のニューヨーク株式市場の急落にもかかわらず、急反発しました。信託が27兆円も買いに出たからで、逆行相場と言われています。

 安倍内閣がポートフォリオの見直しを公表し、日本株、外国株とも25%に引き上げました。60%だった国債は、35%に引き下げられました。GPIFの運用資金は137兆円に上るそうです。

 米国の公的年金基金に次ぐ世界第2位の規模になったGPIF。もっとも、米国にある世界最大の公的年金基金は、株を一切組み込んでいないということ。すべて非市場性の国債で運用しています。国家のカネで民間企業を支配するのは好ましくない、という考えからです。

 GPIFは大丈夫でしょうか。厚生労働省にとって未体験ゾーンです。消えた年金問題、グリーンピアの大失敗…。苦い国民的記憶がよみがえります。今は株高ではしゃいでいるが、大穴があいたら誰が責任をとるのか。庶民が積み立てた老後資金を政治家や官僚の食い物にされていいのでしょうか。

 国家公務員の年金資産を運用する国家公務員共済組合連合会は、資産構成の目安を見直して、国内株式の比率を8%から25%と3倍に増やすと発表しました。運用資産額は7・6兆円。厚生年金との一元化を10月に控え、137兆円の公的年金を運用するGPIFと同じ資産構成にするためだそうです。

 地方公務員共済組合連合会(運用資産18・9兆円)と日本私立学校振興・共済事業団(同3・8兆円)も、GPIFとほぼ同じ目安の導入を近く発表します。合計30兆円の3共済がGPIFと同じ目安を導入すれば、5・1兆円の国内株式の買い増しが生まれます。さらに、海外資産も8・8兆円の買い増しとなり、円安の要因となります(「日本経済新聞」2015年2月26日付)。

 簡易保険やゆうちょ銀行の上場、日銀の指数連動型上場投資信託(ETF)買い入れなど公的資金がらみはまだまだあります。しかし、官製相場はゆくゆくは信用をなくします。しかも、株価のつり上げは市場の撹乱要因となります。

 日経平均が上がると経済全体が上がっているかのように描くマスコミがありますが、もっと科学的に書くべきです。日経平均が経済実態と正反対の方向に動くこともありえるからです。

 冷静な対応が求められます。しかし、私たちの年金はいったい大丈夫なのでしょうか。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2015年 4月 15日号より