社員教育は壮大な社会教育運動~企業で社員教育の目的・方法・方針の共有が重要

 中同協社員教育委員会は、現在の会員企業における社員教育の特徴や課題を把握し、取り組みのさらなる発展の方向性をさぐることを目的として、「会員企業での社員教育に関するアンケート(2015)」を実施しました。集計結果より各企業で「社員教育の目的」、「社員教育の方法」をどのように考えているか、「社員教育の方針」が定められているかに絞って紹介します。

〈実施要項〉

実施時期: 2015年4月~6月の間、各同友会の実状に合わせて設定。
対象: 各同友会会員が任意で設定。18同友会が約1万5000名に対して実施。
実施方法: 各同友会がe.doyu NEWアンケート機能などグループウェアを用いて実施。
回答: 17同友会1234名が回答
(愛知同友会より1299名と多数のご協力をいただきましたが、全国の傾向をより客観的には把握する観点から、愛知同友会のみ分けて集計を行いました。本集計は愛知同友会分の回答を含まない1234名分を集計したものです。ご了承ください)

中小企業―地域の「たよれる学校」

 「国民の大多数が働いている中小企業は、これからの時代を担う人間を育てるための『たよれる学校』でもあります。その誇りと自覚をもって社会的責務を果たすことにより中小企業の繁栄は約束されます」―これは同友会の「教育宣言」といわれる中同協第15回定時総会(1983年)の宣言の一節です。同友会の社員教育は、この視点にたって企業人としての手腕力量の前に、社会的に信頼される「人間らしい人間」に向って経営者と社員が育ちあおうという理念にたって実践を展開してきました。いま、こうした理念と実践に対する地域社会からの評価と期待の声がますます高まっています。また、企業の発展にとっても地域の若者を採用し共に育ちあうことが不可欠の課題であるという認識が広がっています。こうした状況の中、アンケートを実施しました。

社員教育の目的―働くこと・生きることをどう豊かにするか

 まず「社員教育の目的」(複数回答可)では「自律的行動の促進」が最も多く64%、「問題解決能力の向上」、「技能向上」、「働き甲斐の実感」、「人格や教養の向上」の順となっています(図1)。「技能向上」よりも「自律的行動」や「問題解決能力」など社員の主体性、自ら考えて行動する力を伸ばそうと考えている経営者が多いとの結果です。また「働き甲斐の実感」、「人格や教養の向上」が「情報の共有」や「経営感覚の獲得」に比べてかなり多いことから、職業的専門能力の枠組みだけにとどめず、一人ひとりの社員の働くこと・生きることをどう豊かにするかという観点をもった経営者が多いといえます。「人間らしい人間」に育ちあうことをめざす同友会の教育論が一定程度、浸透していることがうかがえます。

教え・育ちあう社員集団づくり

 つぎに「社員教育の方法」(複数回答可)についてたずねた結果は、「資格取得や自己啓発の奨励」が多く46%、つぎに「経営者とのコミュニケーション」と「先輩が後輩を教える仕組み」がそれぞれ37%、「長期的・計画的なOJT」が32%とつづきます(図2)。「資格取得や自己啓発」という社員本人の努力を促す方法を中心としつつ、経営者とのコミュニケーション、先輩が後輩を教える仕組みという、職場での人間関係に着目した方法が追求されていることが特徴です。

 社員が育つためには経営者との関係性、そして教え・育ちあう社員集団づくりが重要であると認識している経営者が多いといえます。「労使見解」が指摘する他責にできない経営者の役割を自覚し、「共に育つ」の教育論が意識されていると考えられます。

教育方針を確立する課題

 上記のような目的と方法の特徴があるなかで、つぎに社員教育の方針が定まっているか、そしてその成果が生まれているかに着目します。自社において「教育方針を持って取り組み人材が育っている」は25%、「教育方針を持って取り組んでいるが成果が上がらない」が9%でした(図3)。 一方、「場当たり的な対応だが人材は育っている」が31%、「場当たり的な対応で成果は上がらない」が14%でした。教育方針を持っている経営者は約3人に1人にとどまり、「場当たり的な対応」が半数近くにのぼるという結果です。ちなみに今回の調査で経営指針が「ある」企業は62・2%です。経営指針はあっても教育方針は定めていない企業が多いことが分かる結果です。

社員教育の目的・方法・方針の共有を

 教育方針を定めている企業とそうでない企業とではどのような差があるでしょうか。

 それぞれについて「最近1年間の業況(黒字基調・収支均衡・赤字基調のいずれかを選択)」の関係をみると、同じ人材が育っていると感じている企業でも、教育方針を定めているグループの方が黒字企業の割合が高い傾向があります(図4)。教育方針の存在が一人ひとりの社員の士気上昇につながり全体として業績に結びついていると考えられます。会員企業の中には先述したような、地域の人材育てを担う自社の役割や、経営者の役割、「共に育つ」理念を、社員教育方針でうたっている企業もあります。そうした企業ではさらに一層社員の士気が高く、社員が人間としての誇りにかけて主体的に働くという企業づくりが展望できることでしょう。社員教育の目的と方法を意識するだけにとどまらず、目的と方法にふさわしい教育方針をたてて、社員の納得を得ている企業では人材が育ち、企業の業績に結実します。そのことを通して地域を担う人材が育ち、地域経済の振興にも貢献できることは何にも代えがたい経営者の喜びといえます。

 経営指針と社員教育方針の関係をどのように考えるか、採用計画と教育方針をどのように関連づけるかなど、いくつかの検討すべき課題がありますが、社員教育の重要性からすれば「場当たり的な対応」から脱することが大切です。経営指針の見直しの際に、教育方針を盛り込むなどできることに取り組み社員と共有することが大切になります。

「中小企業家しんぶん」 2015年 12月 5日号より