【独立中小企業と「労使見解」】第2回 独立中小企業への変革の道

嘉悦大学ビジネス創造学部学部長・教授 黒瀬 直宏

 2月5日付の本欄で中小企業の生き残りと中小企業が「次の」社会を切り開くために、「自分の仕事は自分で創りだす」独立中小企業への変革が必要と述べました。今日はそのための道筋を考えます。

(前号はこちら)

 第1は事業分野と市場開発に関する戦略です。今、発展している中小企業は必ず事業分野に関する明確な戦略を持っています。ジーンズ用のデニム生地の生産で高収益を上げているある機屋は、今までは安くてよいものを作れば必ず売れると思っていた。だが、安くてよいものは中国でも作れるようになった。では中国ではできない、作るのが難しいものに特化しようと、多品種少量の高級品分野を事業領域にし、成功しました。すべての市場が縮小しているわけではありません。機械、部品、生活用品など、産業横断的にじわじわと反大量生産型の高付加価値分野が拡大しています。この分野は大量生産の大企業や開発力がまだ弱い東アジア企業では対応できず、独自の技術を持つ日本の中小企業が得意とする分野です。中小企業が発展しうる基盤はあるのです。

 この分野で市場を開拓・拡大するには、市場の「つぶやき」を聞き取るつもりで、個々の顧客に密着し、潜在ニーズを掘り起こすことが必要です。顧客は意外と自分の真のニーズには気づいておらず、「お客さんが必要としているのはこういうことではないのですか」と提案するのです。言わば「提案型御用聞き」です。これも中小企業だからこそできるマーケティングです。

 第2は人間尊重を経営理念とすることです。中小企業を発展させる原動力は人財のほかにありえません。だからこそ同友会の「労使見解」は「高い志気のもとに、労働者の自発性が発揮される状態を企業内に確立する努力が決定的に重要」であり、そのためには「労使は相互に独立した人格と権利を持った対等な関係」と認めなくてはならないとしました。私は、この「労使見解」の主張は「経営パートナー主義」と言い換えられると思います。労働者は共通経営目標達成のためのパートナーというものです。こうすることにより労働は自発的で喜びを伴うものになります。労働の人間化です。自発的労働こそがイノベーションの源であり、独立中小企業への原動力です。

 人間尊重の経営は顧客との間でも進めるべきです。多くの企業は、顧客のポケットの中の貨幣が目的で、顧客はそれを得るための手段にすぎません。しかし、発展している中小企業には顧客との顔の見える関係を基に顧客の喜びをわが喜びとする、1種の精神的共同性を構築し、顧客の真のニーズを満たす結果として貨幣(利潤)を得ている企業があります。取引の人間化と言えます。大量生産の大企業では顧客との顔の見える関係は創れません。顧客との精神的共同性は中小企業の市場基盤を固め、独立中小企業への原動力となります。

 「労使見解」の説く人間尊重経営を基盤に反大量生産型高付加価値分野で市場の「つぶやき」を聞きとる。これが独立中小企業への道です。

(次号に続く)

「中小企業家しんぶん」 2016年 2月 15日号より