【独立中小企業と「労使見解」】第3回 組織経営の鍵は情報共有

嘉悦大学ビジネス創造学部学部長・教授 黒瀬 直宏

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 前回、「労使見解」の説く人間尊重経営は、労働者を共通経営目標達成のためのパートナーと位置づける「経営パートナー主義」と言い換えられるとしました。「経営パートナー主義」の実践が情報共有を核とする組織運営です。情報を経営陣が独占するような組織では労使間で対等なパートナー関係は形成できません。組織内で情報共有を推進するには3つの情報共有ループの形成が必要です。

 第1は、経営陣の持っている情報、たとえば経営戦略、部門別行動方針、売上・利益に関する情報などを一般社員が共有するループです。社員はこの情報を持つことにより自分で判断し、自分で行動できる自立的な人間になります。

 第2は、一般社員が持っている現場情報を経営陣が共有するループです。現場にこそ貴重な情報があり、経営に生かすにはこのループが不可欠です。それはまた社員に自分の能力が実証される喜びをもたらすものです。

 第3は、社員同士が持っている情報を相互に共有するループです。これにより、情報がより高次のものに変換されます。また社員同士に労働共同体の一員としての一体感をもたらします。

 こうした縦・横の情報共有ループの形成により、企業は自立的な人間が自己実現的な労働を展開する「労働共同体」になります。これこそが「労使見解」が目指すべきとする「高い志気のもとに、労働者の自発性が発揮される状態」です。

 情報共有ループの形成は独立中小企業化も推進します。たとえば、第1のループにより自立化した社員が新たな需要情報や技術情報を発見し、第3のループでよりレベルの高い情報に変換し、第2のループにより経営方針化します。情報こそが革新の源泉であり、情報共有型組織運営は企業全体を優れた情報発見システムに高め、革新による独立中小企業化を推進します。

 規模の小さい中小企業は、大企業より情報共有型組織運営をしやすいという利点があります。これを生かし、中小企業は大企業が発見できない情報を発見し、独自の市場を開拓できます。前回述べたように、中小企業が狙うべき分野は、確実に拡大している反大量生産型の高付加価値分野です。多品種少量の高付加価値製品は発展途上国が追いつけない分野であり、優れた技術力を持つ日本の中小企業がこれを発展させれば、新たな中枢産業が生まれます。大企業による大量生産型産業はもはや国内で拡大できません。多品種少量生産の高付加価値産業の発展によって、大量生産型産業中心の日本経済の「形」を変えるのです。それは高付加価値製品の生産で中小企業の賃金を引き上げ、大企業との格差を是正します。また、中小企業による人間尊重経営は、「経営パートナー主義」で自己実現的な労働を可能にし、顧客との間では精神的共同性を構築(前回参照)し、貨幣が支配する市場経済の「人間化」(労働と取引の「人間化」)を進めます。

 中小企業の独立企業化は中小企業の発展だけでなく、「次の」社会も切り拓くのです。

(次号に続く)

「中小企業家しんぶん」 2016年 3月 5日号より