愛媛県松山市・東温市 中小企業振興基本条例制定と推進に学ぶ視察研修会

 愛媛同友会の条例制定の事例を学ぶため、これまで宮城・静岡・滋賀・奈良・高知の5つの同友会が愛媛県松山市と東温市の視察を行っています。奈良同友会として2回目となる条例視察会の様子と参加者の感想、3月16日に行われたシンポジウムの概要を紹介します。

同友会だからこそできる振興条例の推進~科学と情熱と思い~【奈良】

愛媛同友会

 奈良同友会が主催して2月9~10日に行われた「松山市・東温市中小企業振興基本条例制定と推進に学ぶ視察研修会」に参加しました。

 松山市と東温市の振興条例の特徴は、慶應義塾大学経済学部の植田浩史教授が提唱する「実態調査・振興条例・円卓会議」を条例づくり3つの定石として位置付け、愛媛同友会が制定のプロデュース機能を担い推進していることです。

 そこで、条例制定後の取り組みを学ぶと共に、3つの定石を打つことができれば(それだけでも高いハードルですが)、地域振興は普遍的に前進するものなのかを検証するという思いで、研修会に臨みました。

 東温市では、山本健吾市産業創出課 課長補佐の「条例前文にある文言を市の総合計画に盛り込んでいます。これは、市の中小企業振興による地域づくりへの強い思いの表明」「5年ごとに実態調査をして、東温市の調査を全国の基準にしたい」という報告に、行政マンの強い思いを実感。この思いの源泉は、条例制定前1年間にわたる学習活動の積み重ねと、同友会リーダーの情熱。「戦略や手順だけでは、条例はできても推進はできない」(米田順哉愛媛同友会副専務理事)「人を生かす経営の実践と、情熱・戦略・行動が問われる」(鎌田哲雄愛媛同友会専務理事)のです。

 松山市では三好貫太市産業部地域支援課主幹より、民間主導の円卓会議と、そのもとでの3つの専門部会の実践が紹介されました。愛媛同友会は「人育ち応援部会」を担い、キャリア教育で培った経験をいかして、小学校高学年向けの教材「未来デザインゲーム」を開発。4月から学校教育の現場で活用されます。

 松山市の円卓会議座長の和田寿博愛媛大学教授は「理念と人間関係による結びつき、科学と情熱と“何とかせなアカン”という思いでがんばっている」と強調。「条例運動はわが社の本業そのもの」と断言する米田順哉愛媛同友会副専務理事、愛媛の食文化を全国に発信する田中正志愛媛同友会代表理事の経営実践にも学び、振興条例制定と推進は、企業づくり運動をベースにした人が生きる地域づくり運動と一体となってこそ本領を発揮するということを学んだ2日間でした。

滋賀同友会専務理事 廣瀬 元行

視察研修会に参加しての感想

西村博史氏

人を生かす経営こそが条例制定運動の鍵という学び

西村博史会計事務所 所長 奈良同友会政策委員長 西村 博史

 私が、今回の学びで得たことは、中小企業家同友会の理念と条例制定運動は不即不離の一体のものであるという事です。

 人は「信じるに足りる存在である」と、鎌田専務理事は述べておられます。その「信じるに足りる」中小企業を地域に1社でも多くつくることが、すなわち条例制定運動そのものです。つまり、私たちが「信じるに足りる」「憧れの」中小企業であるかどうかを問われる運動が条例制定運動であると言えます。

 地域で「信じるに足りる」「憧れの」中小企業になるためには、人を生かす経営をめざし実践している企業であるかどうかという点を欠かすことができません。人を生かす経営と異なる道を行く中小企業が「憧れ」の存在になれるはずがありません。「条例・実態調査・振興会議」が条例制定活動の定石であるとすれば、人を生かす経営の実践はそれなくしては動かない「鍵」であり運動のエネルギーそのものです。

 「できちゃった条例」が動かないのは、そこに中小企業家の魂が込められていないからです。人を生かす経営にかける思いこそが、魂そのものです。私たち奈良同友会が、この観点から振興条例制定の運動を位置づけることができるかどうか、それが今後の事の成否を決定づけるのではないかと思っています。

 今回、奈良県広陵町役場の方々、広陵町商工会東会長にも同行いただきました。東会長は松山市の学習会を通して「今まで地域の事は国や県がなんとかしてくれると思っていましたが、愛媛に来て自分たちがやらなければならないことに気づきました。今までのぬるま湯のような活動を改めるべきであると痛感しました」と話されていました。参加者すべてがその思いを共感できたのではないでしょうか。

 愛媛同友会は、間違いなく全国同友会の先頭を走る条例制定運動を展開しています。今後も私たちのベンチマークとして仰ぎ、ともに活動をしていきたいと思います。きめ細かな行き届いたおもてなしは、感動的で、同友会理念に忠実に運動を進めてきた積み重ねの成果であると感じました。

 同友会理念にそった活動という基本の姿を学ぶ旅をさせていただきました。

「未来デザインゲーム」を作成~松山市条例円卓会議シンポジウム【愛媛】

愛媛同友会

 3月16日、松山市湊町4丁目のジオフロントカフェにおいて、松山市中小企業振興円卓会議のシンポジウムが開催されました。

 基調講演では、北海道同友会南しれとこ支部別海地区会会長の山口寿氏と北海道同友会副事務局長の米木稔氏が取り組みを紹介しました。特に山口氏は、酪農や水産業に偏りがちな町の施策に対し「商工業を担う中小企業も同様に重要だと認識してほしい」と声をあげて条例制定につながったこと、別海町の行動指針を策定する検討会議や運用チェックを行う審議会が設置され、条例に基づく施策のPDCAサイクルが回っていることなど、条例先進地の取り組みを熱く具体的に報告しました。

 後半は、円卓会議の3つの専門部会の2015年度の活動報告でした。法人会が主催した「松山まどんな活躍推進部会」では、女性活躍をテーマに制作したコミュニケーションカードなどについて、NPO法人ワークライフコラボ(愛媛同友会会員・堀田真奈氏)が主催した「なでしこドリーム・プロジェクト」では女性の起業を支援する過程が報告されました。

 そしてキャリア教育委員会(武田正晴氏、前田眞氏、稲田里香氏、米田順哉氏)を中心に愛媛同友会が主催する「人育ち応援部会」では、シンポ当日の日本経済新聞の四国経済面にも掲載された「未来デザインゲーム」の報告を行いました。

 「未来デザインゲーム」は、小学校高学年のキャリア教育の授業で教員がゲーム感覚のワークショップを実施できるよう組み立てられています。愛媛同友会と以前から交流のある雄郡小学校教員の吉見香奈子氏の協力を得て、キャリア教育の手引書である「生きる力を育む教育」の思想を基に開発しました。

 「未来デザインゲーム」は、子どもが中小企業で働き・暮らす意味と価値を「理解」し「体感」し「考える」ことによって、子どもだけでなく学校の教員や保護者にも公平で健全な職業観と勤労観を広げることが目的です。シンポの翌日には、鎌田専務理事と米田副専務理事が松山市教育委員会を訪問し、条例を通して「ゲーム」ができた背景と目的を説明し、今後「ゲーム」を広めるための地ならしも行っています。

 松山市に中小企業振興基本条例ができて丸2年が経ちます。今回のシンポジウムは、条例の成果が少しずつ上がってきていることを確認し、実践運動をさらに進めていく決意を新たにするよい機会になりました。

「中小企業家しんぶん」 2016年 5月 5日号より