同友会らしい 経営指針の作成、活用による実践の成果 立教大学名誉教授 菊地 進

DOR2016年1~3月期オプション調査の結果から

同友会の取り組みを映すDOR

 『同友会景況調査(DOR)』は、1990年の開始以来、3つの目的の実現を目指す同友会企業の経営、取り組みを追ってきました。

 経営指針の作成と実践の成果として、2000年、2007年、2012年にオプション調査を行い、2016年1―3月期においても改めてこの点を調査しました。質問の選択肢を少しずつ変化させており、過去の結果と単純に比較できない点もありますが、経営指針の作成と実践の大事さについては今回改めて確かめられるところとなりました。

 中同協第48回定時総会議案では、同友会らしい経営指針に基づく経営実践を進めてきていることが強調され、本年度の方針においても「経営指針の成文化から実践運動へ。成果の出せる企業づくりの推進」が掲げられています。この方針の意義を確認する視点から今回のオプション調査の結果を見てみたいと思います。

経営指針実践の成果 人材育成につながる ことが断トツの1位!

 2012年のオプション調査の結果については、本紙2012年9月5日号、10月5日号でご報告しましたが、この時は、経営指針の実践の成果として「人材育成につながった」39・4%、「顧客ニーズに対応した企画力・営業力が向上した」36・3%が抜きん出て1位、2位となりました。

 ところが今回は少し様相が異なります。前回1位であった「人材育成につながった」が、49・7%とさらに割合を増やし、断トツの1位になっています。業種別にみると、サービス業で54・2%と5割を超え、続いて建設業49・7%、製造業48・9%、流通商業47・5%と業種を問わず「人材育成につながった」ことが第1位となっています(図1)。

 2012年調査では、「顧客ニーズに対応した企画力・営業力が向上した」が僅差で第2位の位置にありましたが、今回は7・5%下がって、第1位に20・9%ポイントも差がついています。これは、前回なかった「取引先や関係者からの評価が高まった」27・7%が新たに選択肢に加えられたことにより、回答が少しばらけたからかもしれません。金融機関との関係でも評価が高まってきたようで、「金融機関との関係が良好になった」23・5%の回答割合が2012年調査よりも増えています。こうして、この間の経営指針に基づく実践の成果として、経営力、人材育成力の向上が実感されるところとなっています。

同友会らしい経営指針の作成と実践で業績指標に顕著な差

 2015年は「中小企業における労使関係の見解(以下、労使見解)」の発表から40年の節目を迎え、同友会では経営指針の実践運動の意義が改めて強調されました。同友会における実践運動とは、この「労使見解」の理解のもとで作成される経営指針の成文化を行い、企業変革支援プログラムや例会などで指針実践の確認を行い、適用を広げていくこととされています。

 実践の成果として実感された第1位が「人材育成につながった」であったことは、同友会の経営指針実践運動の有効性が実感をもって確認されてきたということを意味しています。もちろん大事なことは、これが本当に業績につながっているのかどうかです。

 経営指針は、経営理念、中長期の経営方針、単年度の経営計画から成り、今回のオプション調査では、その1つひとつについて作成・公表のレベルを聞き、回答をお願いしました。集計したところ、「理念・方針・計画すべてを作成している」は73・5%、「すべてを作成してはいない」が26・5%でした。すべてを作成している割合は、2012年調査よりも上がっています。

 図2は、この2グループに分けて業況判断、売上高、採算、業況水準についてDI値(増加マイナス減少割合%など)をとり、その結果を比べたものです。グラフが上に行くほど、増加、好転、良い割合が高くなります。結果は1目瞭然で、いずれの指標においても、「理念・方針・計画すべてを作成している」グループの方がかなりの差で高い数値をとっています。

 こうして、「理念・方針・計画すべてを作成」することが、「人材育成につながった」だけでなく、実際の業績にもつながっていることがわかります。

経営指針の作成・公表のレベルの違いで売上高増加に明瞭な差

 このことをもう少し別の角度から見てみます。今回のオプション調査では、経営指針の実践の結果、売上高が増加したかどうか、採算が向上したかどうかを聞きました。図3は、理念・方針・計画の作成・公表レベル別に、売上高について「はい」の割合(売上高が伸びた割合)を見たものです。

 経営理念では、「作成した」だけでは37・8%ですが、「作成し社内公開した」となると45・0%に高まり、「作成し社外公開した」まで進むと58・2%と6割近くにまで達しています。経営方針についても同様で、「作成した」42・6%、「作成し社内公開した」47・0%ですが、「作成し社外公開した」になると、実に66・0%にまで高まります。

 これは、理念にしても指針にしても、経営者の頭の中で整理しているだけではだめで、社員と共有できるまで高める必要があり、さらには、社外に示せるところまで練り上げることが重要であることを示しています。採算の向上についてもほぼ同様の結果が出ています。

 図3でもう1つ見ているのが経営計画です。2012年の調査では、「作成し到達点を毎月点検する」ことの大事さがはっきりと捉えられました。今回はこのほか選択肢に経営計画の社外公開が加えられました。もちろん、単年度の計画ですから、社外公開といってもその公開の仕方にはさまざまあります。毎月の点検をせず形だけ計画を示すということもありえます。

 しかし、それでは意味がないわけで、ここでは経営計画について毎月の点検を行ったうえで、取引先や関係者など社外の理解をうるべきところに公開していると思われる回答を抽出して集計することを試みました。図3では、「毎月到達点を点検するとともに社外公開した」という選択肢名になっています。

 このように集計してみると、「毎月到達点を点検するとともに社外公開した」が61・0%と最も高い回答割合になってきます。「社外公開した」を入れなければ、「作成し毎月到達点を確認する」が相当に高い回答割合になったと思われます。やはり計画を作るだけでなく、到達点の点検を怠らず進めていくことが売上高を伸ばし、採算を向上させる大事なポイントとなることがわかります。

南三陸町調査で示された経営指針作成、人材育成の取り組みの重要さ

 中同協第48回定時総会第7分科会でご報告しますが、東日本大震災による被害が甚大であった宮城県南三陸町で中小企業振興基本条例づくりが進んでいます。町役場の実施する事業所調査を宮城同友会が受託し、昨年に調査を実施するとともに、すでに調査分析報告会が終わっています。

 慶応大学の植田浩史教授と私が、調査票の作成と分析に協力しましたが、明らかになったのは経営指針作成、人材育成の取り組みの重要さでした。社員の後押しで事業再開を急ぐことができたのも、震災前に比べて売上を伸ばすことができたのも、経営指針を持ち、人材育成を重視する経営に大きな秘訣があったことが浮き彫りになりました。

 公的機関の調査によってもこうしたことが確かめられるわけであります。経営指針の実践にいっそう磨きをかけ、同友会型企業が広がり、地域経済をけん引していくことを心より期待したいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2016年 6月 15日号より