中国進出で国内市場も確保~(株)中島 専務取締役 中島 泉氏(群馬)

 嘉悦大学教授の黒瀬直宏氏が海外展開をする会員企業を取材し紹介する「海外戦略」。第5回は(株)中島(中島建代表取締役、群馬同友会会員)で、海外部門を担当する中島泉専務取締役に話を聞きました。

 (株)中島(伊勢崎市、従業員59人)はホンダ系、日産系の大手部品メーカーにプレス加工によるスターター部品、エンジン部品、ワイパーモータ部品などを納品しています。同社の強みは、プレス加工の専門企業として取引先の部品設計に参加し、積極的にコストダウン、品質向上のための改善提案を行うこと、また、プレス加工の良し悪しを決める金型、特に順送精密金型を内製し、高品質と効率的なプレス加工を実現していることで、自動車工業の競争力基盤である典型的な専門サプライヤーです。

 同社は中国の東莞(トウカン)に現地法人を設立しています。中国進出のきっかけは、取引先から海外からの金型調達を勧められたことです。

 取引先から紹介された金型メーカー数社をまわり、2002年深圳(シンセン)の台湾系メーカーを選びました。中国には「安かろう、悪かろう」のイメージがありましたが、持参した製品見本に対し、次々に詳細を尋ねる専門的質問が発せられ、技術知識は日本と同じでした。大規模な設備も備えており、標準的な金型の更新型を発注しましたが、出来栄えは80点、コストは40%減と満足できるものでした。

 この取引先から金型製作とプレス加工を行う合弁会社の設立を提案され、中島泉専務が副社長に就任しました。2004年のことでしたが、2006年には合弁を解消せざるを得ませんでした。副社長として経営計画を作成していましたが、計画を簡単に変えるなど、マネジメントに対する考え方が違い、経営陣の中で孤立せざるを得ませんでした。

 代わりに2007年、(株)中島100%出資で(株)中島から金型設計を受託する企業を設立しました(「中島精機(深圳)有限公司」)。

 (株)中島には日本では不足している金型の設計者が必要だったからです。中島専務は上記の合弁会社で社員や外注先とのコミュニケーションを十分にとっていたため、「連れて行ってくれ」という社員が数人現れ、新会社に参加してくれました。とてもうれしかったそうです。

 しかし、また困難に直面します。2008年にリーマンショックが起き、仕事量は激減しました。「中島精機(深圳)」は業務の一部で金型部品の製作を外注し、日本に送っていましたが、この外注先からこのままでは経営が成り立たないので、金型製作の合弁会社設立を提案されたのがきっかけで、2009年「中島華研五金(深圳)有限公司」が創設されました(後東莞に移転し「東莞中島華研五金有限公司」に社名変更)。新会社は金型の試し打ち用に導入したプレス機を用いて、東莞の日系自動車部品企業向けに部品の量産も始めました。金型製作の売上は不振で赤字が続き、日本から社員や取引先への支払いのため資金を持ち出したこともありましたが、2012年の反日デモ騒ぎが終わると、中国における日本車の人気が高まり、2013年ごろから日系部品企業向けの売上が拡大、2015年には黒字転換に成功しました。

 (株)中島にとって中国進出には苦い思いもあり、経営的に負担だった時期もありましたが、現在では国内営業のために中国法人は不可欠と言います。顧客は顧客の海外拠点にも供給できるサプライヤーを望んでおり、海外でのその実績が国内での評価も高めているからです。私の参加した自動車部品企業に対する調査結果でも、海外拠点のある企業の収益はない企業を明確に上回っていたことと符合します。国内で顧客を確保するためにも海外進出が必要という時代になったとも言えます。

(株)中島 会社概要

設立:1969年
資本金:2,400万円
従業員数:59名
事業内容:金型設計製作・試作品加工・金属プレス加工・製品組立・電子部品加工
URL:http://www.k-nkj.co.jp

「中小企業家しんぶん」 2018年 7月 5日号より