解明の深堀が必要なれど価値ある内容~『2019年版中小企業白書』を読んで

 「中小企業白書」(以下、白書)とともに「小規模企業白書」も同時に出されました。今年も余白の多い白表紙とは言え、白書が650ページと小規模企業白書が337ページの両白書あわせて1000ページ近くの大変分厚いものです。

 ただ、図表が多く、事例(113例)も豊富であり、関心のあるテーマのところだけ拾い読みしても十分読みごたえがあります。ときどき、「リーマンショックや東日本大震災など外的ショックに見舞われながらも、10年間連続で黒字計上を続けている企業も15%存在している」という文章に出合ったりします。つまり、自分の企業が現在、どのような位置にいるのかをいろいろな角度から確かめられる効用があります。

 内容に入りましょう。まず、第1部「平成30年度(2018年度)の中小企業の動向」。その中の第2章「中小企業の構造分析」で、企業数の変化に着目。中小企業は1999年以降より年々減少傾向にあり、2016年には358万者となっています。2014年から2016年の2年間に企業数は23万者(6.1%)の減少。1999年を基準として規模別の減少率を見ても、小規模企業は調査年ごとにマイナス幅を拡大させており、減少傾向を強めています。危機的状況にあるといえます。

 第2部「経営者の世代交代」では、経営者の高齢化を踏まえ、引退する経営者や新たに経営者になる者について、その現状や課題について分析をしています。

 第3部「中小企業・小規模企業経営者に期待される自己変革」では、「人口減少」、「デジタル化」、「グローバル化」の3つの経済・社会の変化が中小企業にもたらす影響を分析します。「人口減少」という脅威に対して「デジタル化」「グローバル化」は大きな機会になる可能性を示しています。

 次に、「消費者」「従業員」「社会」の観点から、中小企業を取り巻くステークホルダー(企業活動に関わる利害関係者)の価値観の変化を分析し、ステークホルダーが求める価値を提供していくことが、これからの社会で事業を継続していくために重要であることが述べられています。

 たとえば、「安ければよい(安さ納得消費)」という価値観の減退は、中小企業にとって追い風になる可能性があります。また、消費者の求める「利便性(利便性消費)」や「こだわり・特別感(プレミアム消費)」は消費者との距離が近い中小企業に優位性がある可能性があるわけです。

 ただ、「第4次産業革命がもたらす、『経営資源の格差解消』の可能性」の項には期待しただけにガッカリ。本文とすべての図表が大企業と中小企業との格差を示す図表であり、格差解消の可能性は見えません。その辺を質問したところ、事例を読んでくれとのことでした。事例は個々の企業の成功要件を分析したもの。白書はもう少し、理論解明の深堀りが必要になってくるでしょう。

 今回の白書は、不十分な箇所はありつつも、白書として議論が十分成り立っており、価値ある内容です。今後の白書に期待したいと思います。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2019年 5月 15日号より