同友エコ2021受賞企業を紹介する連載。第6回目となる今回は、外部審査委員賞を受賞した農事組合法人多古町旬の味産直センター(千葉同友会会員)の取り組みを紹介します。
千葉県北東部で野菜や米の生産・販売を行う農事組合法人多古町旬の味産直センターは、「環境に配慮した持続可能な農業生産に取り組む」を方針に活動しています。
個人向けに販売している「野菜box詰め合わせ」は、毎回さまざまな農産品を家庭に届けており、何が入っているかは届いてからのお楽しみです。珍しい野菜が届いたり、レシピも同封するなど好評を博しています。
「市民発電 わたしの電気」
市民農園「わたしの田んぼ」として、消費者と一緒にお米を生産する取り組みを行っています。つくられるお米は利用者が前払いで購入。それによって、安定生産と生産者保護が実現でき、米農家の後継者育成にもつながっています。
収穫されるお米の精米に必要な電力は、作業施設の屋根に設置されている太陽光パネルで自家発電しています。その太陽光パネルの設置費用は、日頃から気候危機やエネルギー問題に関心の高い人々からの資金で賄いました。参加者には「自然エネルギー産直」として地域の農産物を10年間届けるという仕組みにしています。10年分の野菜代金を先払いし、そのお金で太陽光パネルが設置され、農産物を毎年届けるというこの取り組みは、2013年にスタートしてから合計1000名を超える人々が参加しています。これだけ多くの人が参加したのは、田植えや稲刈り体験、地域の中で食べ歩きを行う「ぶらぶら祭り」を企画するなど、食料や社会を知ってもらう活動を地域の市民と一体となって続けてきたからこそです。
つくられた自然エネルギー「市民発電 わたしの電気」は購入することも可能で、小売電力が完全自由化されている現在では「『わたしの電気』を使いたい!」との声が多く寄せられています。今後は、畑の上に太陽光パネルを設置して発電と生産を同時に行う「ソーラーシェアリング(営農型農業)」の地域発電所からの電力直接契約などに取り組むことで、エネルギーの地産地消をめざしています。
「買い物は毎日の投票行動です。自然エネルギーを選ぶ消費者が増えれば取り組む企業が増える。そういう企業が増えれば世の中は変わっていくので、消費者が何を選ぶかで世の中は変わるのです」と小林氏は語ります。
食料とエネルギーは自分たちで作り出す
こうした取り組みのきっかけになったのは東日本大震災でした。原発事故によって継続が困難になった福島の農家の姿を目の当たりにし、「原発と農業は両立できない」「自分たちで発電しなければいけない」と決意します。
そしてヨーロッパ視察を実施し、食料だけでなくエネルギーも地域で作るという姿勢を学びました。ドイツでは自然エネルギー発電の7割を市民農家が手掛けており、「市民発電 わたしのでんき」はそのような持続可能な社会をめざした取り組みです。また、スイスのチーズ工場では、チーズを作る際に必要な温水を地域にも供給しており、ソーラー温水装置の設置に出資した人々にチーズの商品券12年分を渡すという取り組みは「自然エネルギー産直」の参考となりました。
「これまで安全で豊かな『食と農業』を作り出してきましたが、それに加えて自分たちで作るエネルギーを自分たちの手で創り出す運動を市民と共に進めたいと考えています。農家は後継者がいないわけではありません。買取価格が安すぎるだけで、従事したい人はたくさんいるのです」と力強く語る小林氏。持続可能な社会に向けて、さらなる活動を推進していきます。
会社概要
設立:1987年
従業員数:16名
事業内容:野菜・米の産直
URL:http://www.tako-syun.or.jp
「中小企業家しんぶん」 2023年 2月 15日号より