賃上げが実現しても個人消費の低迷が続くのはなぜか。そもそも、消費低迷がいつから始まったのか。
家計の最終消費支出を見ると、1980年代は四半期平均で1・43%の伸びがありましたが、バブル崩壊を経て2000年以降(00~19年の平均)は0・05%、特に15~19年はゼロ%と大幅に低下しました。つまり、消費の低迷は00年以降に始まったと考えられます(2024年10月1日、小巻泰之「回復鈍い個人消費・上」日本経済新聞)。
その頃何があったのか。非正規雇用者の大量出現により所得水準は大幅に低下しました。今では雇用者全体に占める非正規雇用者の割合は37%(23年の労働力調査)。00年ごろを境に、派遣社員や契約社員・嘱託など非正規雇用の割合が高まりました。非正規雇用の所得水準は正規雇用の35~38%程度にとどまります。
消費の低迷は、所得水準の低下や将来への不安感を反映したものと考えられます。消費性向(家計調査・勤労者世帯)はコロナ禍で61・3%と大きく下落しました。その後回復傾向にありますが、コロナ前の19年と比べて依然3・5ポイント程度低い。仮に消費性向が1ポイント回復すれば現在の所得で見て、消費は2兆円程度増えることになるのです。
正規雇用男性の生涯賃金の低下や非正規雇用の増加により、若年層ほど先行きの賃金上昇が期待できず、将来にわたり消費を抑制しようとの意識を持ちやすいわけです。
では、消費低迷を打ち破る賃上げは可能なのか。2024年10月から最低賃金が、1055円(全国加重平均)となりました。石破新首相は「最低賃金を2020年代中に全国平均1500円に引き上げる」考えを明らかにしました。仮に2029年までに最低賃金の全国平均が1500円に引き上げられる場合、年間の引き上げ率は7・3%に上り、この10年間の平均引き上げ率(3・1%)の2倍を超えるハイペースとなり、経済全体の賃金の動きにも大きな影響を及ぼします。これは、所得格差の縮小につながる可能性があります。
OECDが算出している平均賃金に対する最低賃金の比率によると、わが国の最低賃金は平均的な賃金の40・3%と、最低賃金制度がある加盟33カ国中21位という下位に位置しています。他国の平均賃金が年間3%上昇にとどまると仮定し、2029年までに最低賃金が1500円に到達するとするなら、最低賃金は平均賃金の50・7%と大きく上昇。フランスを抜いて6位に浮上する計算となります。
一方、賃上げ余力が小さい企業にとってみれば、最低賃金の上昇はすでに重い人件費負担のさらなる増加につながります。中小企業(資本金1000万~1億円)の経常利益を41%、零細企業(同1000万円未満)は50%下押しされる計算になり、6%の下押し影響にとどまる大企業(同10億円以上)を大きく上回ります(2024年10月9日、藤本一輝・他、日本総研)。
最低賃金の大幅な引き上げを実行するため、予算や税制をはじめ、あらゆる手段でバックアップをすることを期待します。
(U)
「中小企業家しんぶん」 2024年 11月 15日号より