黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(株)木村タイル工業(木村稔代表取締役、青森同友会会員)の取り組み(後編)を紹介します。
前編では木村タイル工業が若手や女性の獲得に成功している企業だと述べました。ではどのようにして獲得できたのでしょうか。
労働条件の整備
第1は労働条件の引き上げ、第2は従来行うことのできなかった高等学校へのアプローチ、第3はタイル工事の楽しさの訴えです。
木村氏によると、入社した2000年ごろ、同社も建設業によく見られるように、日給月給で、昇給は施工能力次第のため安心して働けるような職場ではなく、若手は定着しませんでした。そのため木村氏は労働条件の引き上げの必要性を感じていましたが、社長就任(2014年)後の2019年に高校への新卒求人で若手人材を獲得できるように、給与は月給制にして給与水準も引き上げ、福利厚生も充実させていきます。また、労働条件を高めた上で、職人を社員として雇用しました。現在もタイル工事業では、技能者の多くが専属外注で社員は少数といった企業が少なくありませんが、木村タイル工業では工事部の社員17名に対し専属外注は2名だけで、木村氏は職人を社員としている点では東北では1番だと思っています。
高校への求人
タイル工事業では労働条件の整備が遅れている企業が多かったため、学校に求人票を出すことができませんでした。労働条件整備で一歩先んじた木村タイル工業は、若手獲得のため高等学校へアプローチすることができました。高等学校には体を動かすのが好きな人材がいるはずです。しかし、タイル工事業界では求人票を出す資格がなかったため、専門工事業に適合するような人材も(その中には女性もいる)就職の機会を失っていました。労働条件が整備された同社の求人はそのような人材とタイル工事業を結び付けることになり、2020年、最初の新卒者2名(うち1名女性)が入社しました。
タイル工事は楽しい
人材獲得の3番目の柱がタイル工事の楽しさを訴えることです。仲間を誘って2016年に「青森市タイル組合」を立ち上げ、幹事長となりました。高等学校に出向きタイル張りの体験授業を行い、タイル張りの面白さを知ってもらうことが事業の柱です。「青森市タイル組合」のメンバーが講師となり、生徒にタイル張りを体験してもらいます。この体験授業を受けた高校生が木村タイル工業にも入社しています。入社の動機はタイル工事が楽しかったことです。タイル工事の楽しさを知り、高校の先生の反対を振り切って入社した女性もいます。
木村氏はたとえ炎天下、道路にタイルを張る仕事でも職人は楽しんでいると言います。設計図のとおりに完成させるため、自分の頭で考え自分の手で実行する。自律的な労働は「自分が自分の主人公」という人としての喜びをもたらします。そして、思い描いていた通りのものが得られれば、有能感と自信という報酬も得られます。あの建物のタイルは俺がやったと言えるので、人に自分の能力を認めてもらえます。タイル工事は共同で行うことも多く、役立ち合いながらする仕事は仲間関係の楽しさをもたらします。木村氏によるとあいさつがよいだけでいい職人になったと言われることがあります。それはよき仲間関係に立って仕事をするのがよき職人だからでしょう。「ものづくりを楽しむ♪」が同社の標語です。
成長の喜び(「共に育つ」)
労働の楽しさの1つに成長の喜びがあります。木村タイル工業の技能者たちはみな成長の目標を持っていることが同社の「経営指針書」を読むとよく分かります。そこには「仕事の成長で達成できる5年後の目標」という箇所があり、社員が自分の目標を掲げています。
「3年後にタイル技能士1級をとり、1人で現場をやれるようにする。5年後にはでかい現場でも堂々とできるようにする」「来年の目標、産休前の自分に戻る。3年後、墨出しを覚える。5年後、かっこいい職人でかっこいいママになる」などです。同社には1級タイル技能士が10名おり、厚生労働省等共催の技能グランプリで2018年に日本一の金賞を受賞した社員もいます。木村タイル工業では「経営指針」を通じて社員がそれぞれの成長目標を共有し、個人の成長を共同の喜びにしています。
木村タイル工業の強み
木村氏入社時の社員数は6名、平均年齢50歳前後だったのが現在では22名に増えた上、平均年齢は38歳と若返りました。木村氏は同社の若手比率は日本で1番と思っています。しかも、タイル張りを楽しみとし、成長意欲に満ちた人たちです。同社の人材は10年先、20年先の仕事もこなせる陣容となっているため、顧客は安心して発注できます。近年の売り上げが、2020年度1・3億円、21年度1・46億円、22年度2・1億円、2年間で6割増と急速に伸びていることがこのことを示しています。
経営指針の役割
木村氏は社長に就任した翌年の2015年に青森同友会に入会し、「経営指針を創る会」で経営指針について学びました。木村氏は経営指針に出会う前は、ただ利益という数字を追求するだけだったため、理念作成にはだいぶ苦労しました。しかし、講義を受けるうちに自分と自分の企業を違う角度で見ることができるようになり、お客さまや社員へ感謝の気持ちが生まれ、志を持ち社業の発展を望むようになれました。
木村氏は、若手社員が入社してくれるようになったのは、経営指針作成を通じて企業のあり方に確信を持つことができ、若い人たちに自信をもって働きかけができるようになったためだと思っています。来年もまた高校新卒者の入社がすでに予定されています。
会社概要
設立:1950年
社員数:22名
事業内容:各種タイル工事、石・レンガ工事、インターロッキング工事、エクステリア(外構)工事、左官工事
URL:https://kimuratile.com/
「中小企業家しんぶん」 2025年 7月 15日号より









