原材料費やエネルギー費、労務費などの上昇が続くなか、中小企業が適正な利益を確保し、賃上げや人材育成を進めるためには、コスト上昇分を取引価格に反映できる環境が欠かせません。価格の改定は、半期に1度、4月と10月に行う企業が比較的多いことから、中小企業庁では、その前月である3月と9月を、「価格交渉促進月間」と設定し、価格交渉・価格転嫁の促進のため、広報や講習会、フォローアップのための調査を行っています。中小企業庁は6月26日、「2026年3月価格交渉促進月間フォローアップ調査」の結果を公表しました。調査結果から、価格交渉と価格転嫁の現状、今後の課題を考えます。
まず、価格交渉の状況を見ると、発注側と受注側の間で「価格交渉が行われた」割合は、前回の89・4%から90・7%へと約1ポイント上昇し、9割を超えました。一方、「発注側企業から申し入れがあり、価格交渉が行われた」割合は31・5%で、前回から約3ポイント低下しています。また、価格交渉が行われなかった割合も10・6%から9・3%へと減少したものの、依然として約1割の企業が交渉できていません。価格交渉の機会は広がりつつありますが、受注企業が希望しても交渉に至らないケースが残されています。
次に、実際の価格転嫁の状況を見てみます(図)。コスト全般の価格転嫁率は、2025年9月の53・5%から2026年3月には54・2%へと0・7ポイント上昇しました。一部でも価格転嫁できた企業の割合は84・0%となり、前回の83・2%から増加しています。しかし、コスト上昇分の全額を転嫁できた企業は27・2%にとどまり、全く転嫁できなかった企業も15・2%あります。「転嫁できなかった」「マイナスとなった」企業の割合は前回の16・8%から16・0%へとわずかに低下したものの、価格転嫁の状況は全体としてほぼ横ばいです。価格転嫁が進む企業と、十分に進まない企業との間に差が残っています。
コスト別に見ると、原材料費の転嫁率は55・7%で、前回の55・0%から上昇しました。一方、エネルギー費は48・9%、労務費は50・0%で、いずれも前回と同水準です。特に労務費の転嫁が進まなければ、賃上げに必要な原資を確保することが難しくなります。人手不足が深刻化するなか、社員の処遇改善を企業の努力だけに委ねるのではなく、適正な価格転嫁を通じて賃上げを支える取引環境を整えることが重要です。
価格交渉の実施率が9割を超えても、価格転嫁が十分に進んでいるとはいえません。交渉の機会を設けるだけでなく、受注企業が必要な価格改定を実現できる環境を整えることが重要です。中同協では、「価格交渉促進月間」の取り組みを通年に広げるとともに、協議に応じない一方的な価格決定を禁止する中小受託取引適正化法(取適法)の着実な執行や、悪質な企業への対応強化など、公平・公正な取引環境の実現を求めています。また、「パートナーシップ構築宣言」を掲げるだけでなく、実際の取引条件の改善につなげることも重要です。
同時に、中小企業自身も、自社の強みを生かした商品・サービスの高付加価値化や業務改善、人材育成を通じて、付加価値を高めていくことが求められます。適正な価格で取引できる環境を整えることと、経営指針に基づいて社員と共に企業の価値を高めることは、両輪です。価格転嫁によって確保した利益を賃上げや人材育成、設備投資に生かし、社員と企業の持続的な発展につなげることが、人を生かす経営の実践にとっても重要な課題となっています。中小企業が自らの努力によって付加価値を高めるとともに、その成果を適正な取引価格に反映できる市場のルールを確立することが、地域経済の持続的な発展にもつながります。
「中小企業家しんぶん」 2026年 10月 25日号より











