会社法制の現代化と中小企業~商法大改正の評価と懸念

 法制審議会会社法部会は昨年12月8日、「会社法制の現代化に関する要綱案」をとりまとめました。近々、法務大臣に答申された後、通常国会に法案提出されて、2006年4月に施行予定としています。

 今回の会社法の大改正の中小企業にかかわるポイントは、(1)株式会社と有限会社を1つの会社類型(株式会社)に統合する、(2)最低資本金制度を撤廃し、代表取締役1人だけや取締役会を置かない株式会社を認める(機関設計の柔軟化)、(3)税理士などの「会計参与」が取締役と共同で財務諸表の作成に携わる制度を創設する(任意制度)などです。

 中小企業庁は、名目的な取締役・監査役が不要となり、報酬などコスト削減が可能になること、相続における支配権の分散の防止のための事業承継者以外へ相続される株式につき、無議決権化できること等をメリットとして強調しています。

 中同協は、03年に「要綱試案」が公表された際に、パブリックコメントとして意見を法務省に提出しました。そこで私たちは、(1)中小企業の位置づけに関する基本理念を明示すること、(2)株式会社と有限会社の規律の一体化は、中小企業経営の実態に合ったものとして賛同すること、(3)最低資本金制度は、社会の公器たるべき会社の道義的責任、企業存続の責任を表すものとして、一定の水準(300万円)の資本金が必要であること、(4)決算公示は会社の自主的判断とすべきであり、「義務づけを廃止」案を支持すること、などの意見を述べました。この経過を踏まえて今後、会社法制改正で留意すべきことは次の3点が考えられます。

 第1には、機関設計の柔軟化により中小企業に大企業のような企業統治の仕組みを求めないことの功罪です。これは、中小企業経営の実態に法制度をあわせた現実的な措置と言えますが、企業統治の仕組みをもたない会社が融資を受ける際に、企業統治の信頼性を代替する手段として経営者及び第三者が個人保証する商習慣に有力な根拠を今以上に与えてしまう懸念があります。株式会社の有限責任の機能が事実上、制約されます。

 第2には、最低資本金制度の撤廃等が、取引の信頼性などで問題のある現象に結びつく可能性もあること。もし、中小企業の「無責任経営」「法人格濫用」現象がやり玉に挙げられ、「中小企業も経営の透明性を高める仕組みが必要」といった方向に世論が向くとすれば、株式会社の決算公告義務を徹底する環境がつくられるでしょう(今月からインターネットのホームページに掲載する電子公告制度が施行)。計算書類の適正性を担保させるとする「会計参与」導入を金融機関や大手取引先等が取引条件として強要することも懸念されます。

 第3には、商法改正に対応する税制改正がどう進むのか不透明であることです。「株式譲渡制限会社」の中小企業を法人税課税から分離して「みなし個人課税」する大小会社区分税法を導入する可能性など、課税強化の懸念があります。

 以上のような懸念が現実にならないよう、強く望みます。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2005年 2月 15日号より