時代を味方につける中小企業憲章学習運動~社長の仕事は時代と向き合い、変化を起こすこと

 プロ野球のオープン戦が開幕し、注目の楽天が初戦で巨人に勝利した前日、楽天(株)の会長兼社長の三木谷浩史氏の話を聞く機会がありました。7年前の創業時から楽天市場を中心に年率70%で売上を伸ばし、「時の人」となった同氏。なぜ、サッカーやプロ野球球団の経営にも乗り出したのか。その確かなビジネスプランと戦略眼の非凡さに大いに感心させられました。

 話の中で興味を引いたのは、経営判断は直感で決めるということ。同氏が話の中で「直感」にかかわる現象で引き合いに出したのが、将棋の4冠を最近奪回した羽生善治氏の事例。テレビ番組で羽生氏と小学生の頭に電極を付け、将棋を指すときの脳の動きを探ったところ、羽生氏は右脳が活発に動き、小学生は左脳で理詰めで考えていたとのこと。つまり、羽生氏は右脳で将棋盤全体を図形認識のように捉え、必要と思われる駒を必要と思われる個所に直感で指しているのではないかと三木谷氏は言います。そして、それはビジネスでも同じではないかと。

 おそらく、同氏がプロ野球ビジネス等への進出を考えるとき、将棋盤全体を眺めるように時代の流れを読み、勝機が見えてくるのでしょう。もちろん、直感だけではビジネスは完結せず、直感の経営判断を左脳的に緻密(ちみつ)な計画にブレークダウンすることも必要、と三木谷氏は付け加えます。「楽天市場」を始めたときも、名だたる大企業がインターネット・ショッピングモール事業の進出に失敗している中、中小企業が成功するはずがないと言われ続けた同氏。しかし、大企業だから失敗する、ベンチャー企業だからこそ成功するという確信があったとのことです。

 お金がない、人材も豊富なわけではない、「ないないづくし」の中小企業はどこで勝負するのか。一言で言えば、「時代を味方につける」しかない。そのためには、将棋盤全体を俯瞰(ふかん)するように自社を取り巻く経営環境や業界、地域の大きな流れを読み、ネガティブな情報をいち早く察知し、マイナス(逆風)の影響を軽減するか、プラス(順風)に転化する力量、そして、プラスに影響する可能性のある時代の流れ・機会を確実に自社の成果に結びつける力量が求められます。もちろん、同友会が提唱する21世紀型企業づくり(活力ある労使関係を築き、地域での存在価値を高める企業づくり)の努力が基礎にあってはじめて、そのような「時代を味方につける」力が花開くと言えます。

 以上のことは、一社で戦略を考えるだけでなく、同友会で時代認識を共有し、仲間と一緒に「時代の風を読む」中でこそ、問題に気づき、創造力を活性化させることができるでしょう。中小企業憲章の学習は大局的見地から時代を仲間と共に考える絶好の場を提供します。憲章を深く掘り下げれば、時代のビジネスの金脈にぶつかるかもしれない右脳的予感もします。

 今こそ、逆風を順風に変える視点で中小企業憲章学習運動に取り組み、自社で変化を起こし、地域や業界で変化を起こす時代観や社会的見識をもった経営者をめざそうではありませんか。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2005年 3月 15日号より