政府系中小企業金融機関の統廃合を憂える~底流に中小企業軽視の考え方も

 政府系金融機関を1機関に統廃合し、3年間で融資残高を半減させようという流れが加速しています。特に、短期間での「融資残高半減」は、政府系中小企業金融機関の利用者である中小企業にとって、かなりのダメージになると予測されます。これは、日本のものづくり等を支えてきた地域の中核的な中小企業の経営基盤をも直撃し、地域経済の衰退に拍車をかける事態を招きかねません。

 中同協は、11月初旬に緊急政策提言を発表し、各政党、中小企業庁金融課長などに要請、懇談。また、本紙では立教大学の山口教授による「Q&A」の連載も始めました。日本商工会議所などの中小企業団体も反対表明していますが、利用者の現場の声を発信することが求められています。

 しかし今、「中小企業金融は民間金融機関によって十分代替可能であり、政府系中小企業金融機関を廃止すべき」との看過できない論調が目立ちます(『日本経済新聞』11月23日、細野薫「経済教室・中小金融など廃止せよ」)。ここでは、「融資を受けた企業の中には、本来ならば市場から退出すべき企業も含まれることも多い」とか、「金融危機の際、政府系は不要」など、何の根拠も示さずに決めつける論調が目立ち、著者の研究者としての誠実さを疑わせるものがあります。政策は間違うと実害が大きく、その責任も問われます。政策論議は、予想や観念、願望でなく、客観的資料や事実に基づく責任ある議論をしなければなりません。

 このような政策論議に有効に生かせる調査結果が国民生活金融公庫総合研究所から発表されました(11月22日)。これは、新規開業企業(調査対象は国民公庫の融資先)を対象とするパネル調査(調査対象を固定し同一の質問を定期的に尋ねる方法)で2001年から2004年の変化を追う、次のような興味深い分析結果となっています。

 1企業当たりの従業者数は、開業時(01年)の4.1人から04年末には6.3人と2.2人増加。特に、好調企業グループ(全体の4分の1)は10.7人に増やしており、新規開業後の雇用拡大に対する政策金融の効果を裏付けています。

 注目されるのは、開業後の金融事情です。1企業当たりの借入残高の推移を見ると、開業時には民間金融機関が212万円、国民公庫が839万円と公庫への依存が高いものが、04年末には公庫が589万円、民間が659万円と残高が逆転しています。公庫融資が呼び水となって民間金融機関の融資を引き出していることがわかります。特に、好調企業グループでは、民間金融機関からの借入残高が1323万円と著しく増加しており、このグループでは国民公庫が民間金融機関に対して新たな市場を提供していると評価できます。

 このような機能は、中小企業金融公庫や商工中金の民間との協調融資でも同様で、政策金融が民間の貸出機会をつくり出したり、リスクを軽減し役立っているのです。せっかく機能している政府系中小企業金融機関の補完的役割を充実するのでなく、一方的に縮小することは日本経済の将来に重大な禍根を残すことになるでしょう。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2005年 12月 15日号より