2006年の流行語大賞のトップテンに入った「格差社会」。この言葉をめぐってさまざまな議論が交わされ、書籍の出版も相次ぎました。所得格差の拡大や階層化、教育の荒廃やモラルの低下、家庭や地域の崩壊など日本社会の病巣がより深刻さを増していく様相にあり、流行語で済ますわけにはいかない喫緊の課題になっています。
この問題を考え、今後を見通すうえで有益な示唆を提供してくれる興味深い本が最近出版されました。小林由美著『超・格差社会アメリカの真実』(日経BP社刊)がそれです。
本書は、米国が4つの階層に分かれた社会と断定します。4つの階層とは、「特権階級」「プロフェッショナル階級」「貧困層」「落ちこぼれ」。この上位2階層の500万世帯、総世帯の5%未満の層に、なんと全米の60%の富が集中しています。では、米国民の6、7割を占めていた豊かな中産階級はどこに行ったのか。
1970年代以降、アメリカの国力が相対的に低下する過程で、中産階級は徐々に2分化し、一部は「プロフェッショナル階級」にステップアップしたが、大半は「貧困層」への道をたどっていると著者は分析。そして、社会の最下層が、貧困ラインに満たない層やマイノリティ、違法移民など社会から「落ちこぼれ」ている層で人口の約3割を占めているとします。
一見、暴論のように思えますが、具体例を挙げながら的確なデータを駆使した論証は説得力があります。著者は26年前からウォール街やシリコンバレーで日本人初女性エコノミスト、証券アナリストとして活躍。アメリカ経済・グローバルビジネスと「格闘」してきただけに、米国社会の富の偏在、金権政治体質を切れ味鋭く分析し批判します。
さらに本書が秀逸であるのは、メイフラワー号からの歴史を概観して、コンパクトで優れた米国経済史の解説書にもなっていること。そのような歴史的視点から、富の偏在を当然とする米国の土壌が生み出されていることや、日本人があこがれた豊かな「中産階級社会」は、20世紀半ばの例外的な時期であることなどが解明され、そうだったのかと、膝をたたくことしきりの本です。
米国の後追いをする日本が全く同じ社会にならないとしても、「アメリカのようになってはいけない」という本書のメッセージは重く迫ってきます。日本も「階層社会」へ突き進んでいる(戻っている?)のでしょうか。
『週刊東洋経済』12月9日号は、「落ちる中間層」という特集を組んで、米国の中間層が沈み行くように、グローバル化とIT化によって日本のホワイトカラーも没落し、事務系サラリーマンは半減すると「予言」。もっと丁寧な検討が必要ですが、日本の中間層も2分化して、より階層化が進む可能性は現実味を帯びつつあるように思えます。
日本で固定化された「階層社会」が形成されるなら、私たちは想像もつかない社会の矛盾を抱えることになります。そのような事態を回避する知恵を集め、中小企業憲章実現のための行動が求められています。
(U)
「中小企業家しんぶん」 2006年 12月 15日号より