「何のための成長か」を考えるモノサシを~元旦の新聞各紙の社説を読んで

 元旦社説は新聞各社のジャーナリズムとしての基本姿勢を表明する場です。今年もさまざまな角度から論じられていますが、次の4つに共通点を整理できます。

 第1は、憲法改正への懸念です。「政界では、安倍晋三首相も小泉純一郎前首相も、自民党の有力議員の多くが2世、3世議員です。生まれながらにして統治権力の側に就くことが約束されているかのような新階級の出現にさえみえます。(中略)安倍政権の次なる目標が改憲ですが、そこに盛り込まれている権力拘束規範から国民の行動拘束規範への転換こそ、勝ち組世襲集団の発想に思えるのです。国民の内にある庶民感覚と感情のずれ。改憲に簡単にうなずけない理由のひとつです」(中日新聞・東京新聞)。

 第2は、人口減少社会、少子高齢化への対応。「少子化傾向に歯止めをかけ、反転させることは、国家的な取り組み次第で可能である。フランスの例がある。日本の4倍も手厚い児童手当・家族給付を支給し続けたのを始め、税制上の優遇措置、育児支援の拡充等々で、人口増減の分岐点である合計特殊出生率2・1を展望できるところまでこぎつけている」(読売新聞)という論調が目を引きます。

 第3には、格差社会の克服。「格差社会が進行する。強い者が利を占めるジャングルのような社会であれば、それも仕方ない。しかし民主主義に似合わない。競争があれば敗者が出る。救済のネットの目をより細かくしたい。(中略)ワーキングプアという、働いても働いても報いの乏しい層の存在も問題が大きい。富の再配分を急ぎたい」(河北新報)。

 第4は、地方分権と自立の課題。「『地域主権』に挑もう。住民本位の自治を地方が実証し、発信することに力を注ぎたい。4月に統一地方選、7月には参院選と選挙が続く。これは単に選良や代弁者を選ぶ手続きではない。住民にとって、『選ぶ』ことを通して地域、地方、国がどうあればいいか熟考する機会」(中国新聞)。「あらためて、地域主義を誓う」(西日本新聞)。

 今回興味深いのは、GNP(国民総生産)に対比させた言葉が紹介されていること。「『GNC』とは、米国ジャーナリストのダグラス・マッグレイ氏がつくった言葉だ。Cはクールで『カッコいい』の意味だから、GNCは『国民総カッコよさ』か。日本は世界で群を抜くという」(朝日新聞)。「統計の上では豊かとはいえないこの山国(ブータン)が、近年、世界の注目を集めるようになった。満足度を生産量ではなく幸せの度合いで計ろうという新しい指標を編み出し、国づくりに生かしているからだ。『国民総幸福量』(GNH)と呼ぶ」(神戸新聞)。

 「GNP主義」からの脱却が言われたのは随分昔のこと。安倍政権の経済政策のキーワードは「成長」ですが、現在「何のための成長か」が問われています。大企業主導の「成長」ではなく、生活の質の向上や地域の草の根からの成長など、旧来とは違ったモノサシが必要になっていると改めて考えをめぐらせた年の始めでした。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2007年 1月 15日号より