【運動としての経営指針づくり】富山同友会の実践

 中同協が活動方針で経営指針(理念、方針、計画)づくりを提起した1977年から約30年。よい会社づくりの糸口として各同友会で活発に取り組まれる中、実効力が問われてきています。本シリーズ5回目は、1997年に「経営指針を創(つく)る会」を立ち上げ、今年度第12期を迎え、支部での取り組みも重視する富山同友会の活動を紹介します。

経営指針づくりから地域連携へ

 会役員づくりと活動の質向上へ【富山】

「創る会」形式で手づくりの学びあい

 富山同友会では、1980年代から「経営指針づくり講座」や「同一泊研修会」を実施し、毎回20名程度の参加人数を得てきました。しかし、回を重ねていく中で、参加者からは「自分の弱さもあり、何度参加しても完成させられない」「こんな会社にしたいという自社像が見えてこない」「思いが社員に伝わらない」といった悩みが寄せられていました。それは担当する経営労働委員会の役員も同じだったようです。

 転換点となったのは、1997年、先進である宮城同友会の「経営指針を創る会」に担当役員が参加し、真剣なかかわり合いの中に身を置いて、その取り組みを学んだことでした。その現場にまさしく「圧倒されて」帰ってきた役員が中心となって、1泊2日が計5回、半年間の富山版「経営指針を創る会」を同年秋に立ち上げたのです。

 第1期はまさに手探り、試行錯誤の連続でしたが、参加した9名全員が成文化し、さっそく4社(当時)が社内発表を行いました。以来、年に1~2期ペースで開講しており、先月から第12期目がスタート。これまで修了者は他県会員を含めて90名を数え、現理事の6割が創る会の修了生という状況です。

経営理念の確立を重視

 理念・方針・計画のバランスがとれた経営指針づくりを目指していますが、富山においても、最も重視すべきは経営理念の確立だととらえています。いかなる方針(戦略)や計画も、企業の目的である経営理念から導き出されたものでなければ一貫性が保てないし、その実現はおぼつかないという考えからです。

 第1講のスタートから受講生と助言者が「何のために経営しているのか」「利益や社員をどう考えるのか」といった8項目を問いかけ合うわけですが、これらは終盤、経営方針を策定する時にも必ず立ち戻ります。さらに作成した経営指針書を発表する最終講でも、改めて確認する時間を設けています。

事業転換の契機に

 ここ数年、経営指針を実践していく中で、従来の事業内容や事業範囲を大きく転換する企業が表れてきています。

 第8期修了の(株)ジュープラス(永森裕章社長)は受講当時、ながもり塗装の社名で住宅・事務所等の塗装工事を手がけていましたが、「住みやすく安全できれいな街づくり」という理念を策定し、数年かけて住宅メーカー(新築・リフォーム)へと転換しました。 日本の住宅の平均立て替え年数がわずか30年であることや、統一感のない街並みに疑問を感じ、「100年使える家づくり、理想の街並み」を求めてアメリカまで足を運び、納得できる家づくりを学びました。住宅着工数の大幅な減少、同業他社が多い地域である点など逆風の中でのスタートでしたが、現在は、創る会を修了したメンバーと連携し、ユニークな住宅見学会やイベントを手がけ、実績を挙げつつあります。

 また、第1期修了の一般貨物自動車運送業を営む(有)オケ商事(桶茂行社長)は、「木に新たな生命を創造する…」の理念のもと、運送業から資源循環型企業への脱皮を図っています。製材所などから出る木材チップやおがくずを輸送販売する従来の事業を一歩進め、さまざまなところから排出される使用済み木材や木くずを各種サイズに加工し、再びチップや堆肥の原料に活用するリサイクルプラントを建設しました。

 外国材のプレカット化で、地元製材所の廃業が相次ぐ外部環境悪化への対応は当然として、地球環境保全に貢献し、地域からさらに必要とされる企業となるべく、用途・販路の拡大に取り組んでいます。

 さらには、5~10年先を見通す(分析する)ことで自社の課題が明確になり、新卒採用や社員教育に取り組む企業が増えています。これまで中途や縁故採用ばかりで全く新卒採用を考えていなかった企業が、創業以来初めて新卒社員を迎え入れ、社内の教育体制づくりに着手する事例も出てきました。そこからは異口同音に「社内の雰囲気が少しずつ変わってきた」との感想が聞こえてきます。

 このことは、富山同友会の組織そのものにも良い影響をもたらしています。修了生が支部や共同求人・社員教育委員会などの活動に積極的にかかわることで、活動の質が高まり、委員会同士や支部と委員会、さらには行政や大学など、地域との連携が生まれるようになってきました。

つくりっぱなしにしないために

 そのような地道な取り組みを続け、成果も生まれていますが、やはり課題は山積しています。

 第1には、成文化した指針を全社的実践の域にまで高めている企業がまだまだ少ないこと。「つくってはみたが…」という声があることも現実です。

 経営環境が劇的に変化し、積み上げる先から予想もしない課題を突きつけられる状況下にあるとはいえ、「経営指針に経営者自身の熱い思いや夢が本当に込められているのか」「周りを幸せにし、人生をかけて追求するに値するものになっているのか」など、根本的な部分が改めて問われていると言えます。

 経営理念と日常の企業活動とをつなぐ「ハシゴ」がいわば、方針や計画にあたるわけですが、そうした点に確信が持てない限り、社員の共感や自主的な行動、独自性に富んだ豊かな発想も生まれません。

 第2には、富山同友会内での「経営指針づくり運動」に対する理解と広がりの速度がまだまだ満足のいくものになっていない点です。これまで全会員の約20%が創る会で成文化に取り組みましたが、毎期の受講者数は横ばいの10名未満で推移しています。

 さまざまな原因が考えられますが、あらゆる機会を設けて共感と理解を広げる努力を続けること。そして最終的には「あんな会社にしたい」とだれからも目標視されるモデル企業を輩出していくこと以外に、運動としての経営指針づくりを深め、その速度を早めていく方策はないと思います。

 今年9月、富山同友会では18年ぶりに「となみ野支部」が設立されました。その先頭に立った支部長(当時予定者)は、作成した経営指針書を携え、自社の取り組みを熱く語りながら仲間づくりを進めていきました。結果、地元経営者の共感を得、40名目標を大きく上回る50名の体制で始動することができたのです。来年には同支部内での経営指針書の策定勉強会が計画され、個々の会社を強じんな経営体質にすることを目指しています。

富山同友会 事務局長 山崎 典子

「中小企業家しんぶん」 2006年 11月 5日号より