【運動としての経営指針づくり】大阪同友会の実践

 中同協が活動方針で経営指針(理念、方針、計画)づくりを提起した1977年から約30年。経営指針は実践を伴って初めて企業を変え、地域を変える力となっていきます。本紙連載第7回目は、ブロックごとにセミナーを開催し、年間入会者の半数が修了できる体制を整えた大阪同友会の取り組みを紹介します。

年間200名が成文化に取り組む体制づくり

 大阪同友会の経営指針成文化運動の方向【大阪】

経営指針成文化運動の新段階―ブロック主催

 大阪同友会の経営指針成文化運動は、新しい段階に入りました。

 大阪の組織は、18の支部とそれを取りまとめる5つのブロック(大阪北、大阪中央、大阪東、大阪南東、大阪南)があります。その5つのブロック主催で、それぞれ2006年9月より、「経営指針確立・成文化セミナー」を開催しました。現在、すべてのブロックで第1回目が終了し、受講生の数は88名。従来、本部で開催していた時のキャパシティーは、1回あたり30名でしたので、倍以上の受講生が生まれたことになります。

 各ブロックは年4回、全体で計20回開催する予定のため、年間600名が受講し、200名が修了できる体制が整いました。

求人するための成文化がはじまり

 大阪同友会の経営指針成文化運動は、1983年から具体的な活動が始まりました。

 第1回合同企業説明会を開催する時、参加企業の中で、就業規則、経営指針を成文化していない企業があり、必要にかられて勉強会を開催したのが始まりであり、「求人するための成文化」でした。これが第一段階といえます。

 経営指針作成講座が、すべての会員対象に行われるようになったのは、86年からで、田山謙堂氏(現中同協顧問)、故吉本洋一氏(中同協経営指針専任講師)の協力をえて、作成講座が始まりました。92年には「経営指針確立成文化マニュアル」を大阪独自で出版し、セミナーのテキストとなります。

 93年、吉本氏が、中同協を退職後、大阪同友会事務局に席を置くことになってから、大阪の経営指針成文化運動が本格化しました。導入部分のオープンセミナー、経営指針セミナー、チェックの会、セミナー発表会、セミナー同窓会と段階ごとに受講し、経営指針の精度を上げていく活動を行ってきました。

経営指針セミナーA・B・Cコース

 吉本氏が97年3月に他界された後、「経営理念」「経営方針」「経営計画」を3名の会内の専門家に講師をお願いすることになり、現在のAコース(経営理念)、Bコース(経営方針)、Cコース(経営計画)をそれぞれ1泊2日で行う形ができました。そして、受講生のフォローとしての「経営指針を実践する会」も設立されました。

 98年9月に現在の「第1回経営指針確立成文化セミナー」が始まり、06年8月第38回までの受講生数は延べ674名。修了者200名で本部主催のセミナーは終了しました。

 修了者は、「同期会」を結成し、指針の進捗(しんちょく)について交流を持ちながら、フォローをしています。現在、同期会の数は15になっています。

 各年度の修了者数は以下の通り。98年度14名、99年度7名、00年度31名、01年度19名、02年度18名、03年度14名、04年度31名、05年度34名、06年度32名(8月まで)。

講師からリーダーへ

 03年には、運営母体を、経営労働委員会から経営本部の指針部が行うようになり、講師も、専門家だけでなく、会員が講師になり、講師の名称も「リーダー」に変更。「教える、教えを請う」ではなく、「共に学ぶ」という姿勢を持ちました。だから、講師料も発生しません。「リーダーも、受講生も、セミナーを通じて経営を学んでいこう」という姿勢を貫きました。このころから、受講生の数が増えだしました。

A・B・Cコースで学ぶこと

 大阪同友会のセミナーは、経営指針を完全に成文化するのではなく、経営指針の成文化の方法を学んでいきます。実際はそれぞれの社内で、社員と共に行うことになります。

 Aコース(経営理念)では、受講者に対し「何のために経営しているのか」「だれのために経営しているのか」「利益とは何か」などの問いかけから始まり、「労使見解」(「中小企業における労使関係の見解」、中同協『人を生かす経営』所収)の精神を学び、経営者としての経営姿勢の確立を目指します。夜には、社会性・科学性・人間性の観点で、いったん経営理念を作成します。翌日、全員の前で、作った理念を発表。感無量で泣き出す方もいます。

 Bコース(経営方針)は、つくった理念をもとに、戦略的な中期経営計画を策定。楽しい5年後の理想像を描き、グループで外部環境要因を分析、自社の弱み強みをつかみながら、収益構造、営業構造、商品力の項目から改善項目をだし、行動プランを策定します。中小企業憲章の学習ともつながるコースです。

 Cコース(経営計画)は、Bコースで立てた行動計画をもとに定量目標を立てます。3期分の決算書を持参し、決算書の見方、管理会計を学びます。5年後の理想像を実現するための利益計画を立て、実現可能かどうか、変動損益計算書やキャッシュフロー計算書を作成し、検証していきます。

 受講修了まで、1泊2日を3回、計60時間、同じメンバーで、それぞれの会社について語ることになります。寝食を共にしたメンバーは、同期会を作り、熱く経営を語り、経営指針のチェックを行います。なかには、毎月開催しているグループもあります。

年間200名が経営指針成文化に取り組める体制

 2001年ビジョン策定の年から、経営指針成文化の要望が強まり、常時キャンセル待ちの状態が続きました。「いつ申し込んでもいっぱい。いつなら参加できます?」と問い合わせが寄せられるほどでした。

 これを解消し、自立的で質の高い企業を育てるため、06年度から、年間の入会者約400名のうち、少なくとも半数の200名の会員が、経営指針運動の基本に取り組める体制作りが始まりました。

要はリーダー養成

 セミナーのブロック開催において、大きな課題がありました。リーダー・サブリーダーの人数が決定的に足りないということです。

 その育成が、06年度の経営指針成文化運動の中心課題となりました。「労使見解」の理解を深めるため、ブロックや支部・支部幹事会で、「労使見解」の勉強会を継続的に行いました。『人を生かす経営』の販売部数が550部になったほどです。

 4月、6月、8月に行われたセミナーは、見学と実践としてリーダー育成に取り組み、5月、7月、9月にはリーダー養成講座を開催。代表理事はじめ総務会が先頭に立って参加しました。

 また、指針部は、進行マニュアルを標準化し、各ブロックの歩調を合わせることに努力を払いました。指針部の役割は、セミナー運営ではなく、リーダー養成に役割が変わりつつあります。(図参照)

 現在のリーダー数は、A(経営理念)は、7名、B(経営方針)8名、C(経営計画)は4名で、19名のリーダーと50名近いサブリーダーがいます。このメンバーで今期は13回あるセミナーを運営していきます。今後は、サブリーダーを中心として、リーダー養成を行い、大阪同友会の経営指針運動を進めていきます。また、各ブロックでセミナー参加促進のため、新会員中心に広げてゆくことが望まれます。

 

大阪同友会事務局 中田 一好

「中小企業家しんぶん」 2007年 1月 5日号より