伝統漆器から総合食器の卸・メーカーへ (株)末広漆器製作所 社長 市橋 啓一氏(福井)

伝統漆器から総合食器の卸・メーカーへ
創業第2期と位置づけ会社を強くし、産地も守る
(株)末広漆器製作所 社長 市橋 啓一氏(福井)

 7月に待望の新社屋に移転。ここを第二創業の出発点とする(株)末広漆器製作所(市橋啓一社長、福井同友会会員)を訪ねました。福井市から南西へ20キロメートル。同社がある河和田地区は伝統工芸の漆器の産地として知られますが、バブル前の最盛期には140億円余あった売上高が、現在は70億円余に半減。高齢化に伴う廃業や倒産も多くなっています。そのような中で、業績を拡大し、地域で存在感を高める同社。「仕事は楽しいではなく、おもしろいという心境ですね」と語る市橋氏です。

会社らしい会社めざして改革

 今から14年前、「あなたの会社にはもう融資できない。何とかするには経営改善の計画を持ってきなさい」と、突然、銀行から呼び出しを受けました。父親ではだめ、私に来なさいということでした。それまで私は経営の実態にも無関心、気楽なサラリーマンのような気持ちでいました。あまりのショックで、目の前が真っ白になったのを覚えています。

 当時の売上は3億円程度、融資残高は1億5000万円、経営内容は収支のバランスを欠いた倒産瀬戸際の有様でした。同族経営で公私混同は野放図、無計画な経営を思い知りました。

 それからは、知り合いの会計事務所のアドバイスを受けながら、公私混同の一掃や徹底した経費の削減、不良在庫の整理などに無我夢中で取り組みました。「いきなり何事だ」と、父親はもちろん、叔父さん、弟まで親族すべてから猛反発を受け、四面楚歌。それでも会社らしい会社をめざして改革を懸命に進めていきました。

業務改革の情報化システム作った入院生活

 1999年には、体を壊して1カ月半の入院生活。入院中に、会社に対する思いを整理し、体質改善の仕組みをつくりました。パソコンを使ったシステム(すべて私が自前でプログラム)で、受発注、原価・粗利の管理もできるようにしました。これで粗利率の改善や適正在庫の管理、顧客サポート、商品を製造する際の金型の管理、製造のスピード化も実現できました。

 一番の成果は、権限委譲が進み、社員の自主性や経営の参画意識が高まったことです。現在では顧客との価格決定の交渉などもすべて社員です。原価意識もシビアになり、製品の粗利率は年3%ずつ改善されて、今では30%の粗利率を実現しています。借り入れも大半の返済がすすみ、健全経営が実現しました。会社らしい会社をめざした、私自身の第1期の仕事だったと思っています。

総合食器のコーディネーターに

 新社屋も完成し、私も40歳を迎えました。現在のテーマは、「足元を固め、大きく攻勢に出る」こと。業務用漆器の製造販売から、業務用食器として総合的に企画・提案・販売する方向に戦略を転換することです。数年前からその基礎固めをしてきました。

 私たちのお客様は業務用漆器だけでなく、トータルな食器としての提案を望んでいます。漆器だけしか提案できないのではチャンスを逃します。オリジナル商品を意識的に企画製造しながら、陶磁器などは多治見などのメーカーとも提携。1円を争う低価格帯の商品は、割り切って中国での委託生産にしています。

 新しい展示室は、総合的な食器の提案とスピードのある顧客対応をめざして、それぞれの産地の商品をすべて網羅しています。

 現在は、60社のメーカーの商品をストックしています。当社はコーディネーターの役割です。これで、お客様との食器にかかわる商談は、当社ですべて完結するという環境にしました。

新連携から生まれたNGCC技術

 次に手がけているのは、NGCC(ナノグラス超越コーティング)です。風呂やキッチンまわりの木製品、陶磁器などの表面保護を特殊なガラス質でコーティング、含浸するものです。この加工でカビや臭い、汚れが付きにくくなります。

 ヒントは、3年前から同友会の仲間と進めてきた「新連携事業」から生まれました。木製品はすでに旅行関係の大手2社にOEMで提供。今期はその加工賃で1000万円の売上が見込める展望です。

 陶器への応用・加工ではさらに明るい期待を持っています。ジャスコやイトーヨーカドーなど大手流通企業も関心を持ってきており、戦略の柱としてこの技術を大きく育てていきたいと思います。

会社強くし産地も守る

 食器の和洋を問わず提案できる他社とのネットワーク化をさらに進めるつもりです。すでに2つの企業グループ(8~10社)を組織し、当社がその主導権を持っています。異業種の企業とも提携し、鋳造製品なども加えて、より総合的なニーズにこたえられるようにしていきたいと考えています。

 全国展開の飲食チェーンとの直接取引も視野にあります。また、ネットショップ、「遊器屋」での個人直販、漆器の塗り直しを提案するリサイクルの分野も平行して進めていきます。

 漆器という伝統工芸にだけこだわっていては、ニーズの変化で生き残りも難しいのが現実です。自分で手かせ、足かせをせず、総合的な食器を扱うことで会社を強くし、生き残ることが肝要と思います。生き残れば結果として伝統工芸の漆器を守り、産地を守ることになると思うのです。

 これからの10年を、私と当社の創業第2期と位置づけています。

【会社概要】
創業
 1978年
資本金 1500万円
年商 2億1000万円
社員数 12名(パート2名)
業種 業務用食器の企画・製造・卸
所在地 福井県鯖江市河和田
TEL 0778-65-0295
URL http://www.suehiro-shikki.com/

「中小企業家しんぶん」 2007年 9月 25日号より