東京の強み生かし、提案型へ転換
技術力と即納体制でパッケージから「飛び出す名刺」まで
（有）高田紙器製作所 社長 高田照和氏（東京）
職人技が光る「飛び出す名刺」
東京・葛飾で、お菓子や化粧品のパッケージや、ディスプレイなどの企画製作を手がける（有）高田紙器製作所（高田照和社長、東京同友会会員）。名刺を開くと、ダンサーがハワイの風景の中で立ち上がる―そんな「飛び出す名刺」（ポップアップ名刺）も、同社のオリジナルです。これは、ビクトリア式型抜き機械という、今ではすっかり珍しくなった昔ながらの機械と、その機械をゼロコンマミリで調整しながら1枚1枚手作業で扱う職人技無くしては作れません。細かい線まで切り抜くことのできる抜型も自社で工夫しました。
「提案型」で活路
（有）高田紙器製作所は、和菓子の紙箱づくりで1929年に祖父が創業。高度成長期には、地場産業のブリキやセルロイドのおもちゃのパッケージなどを製造、生産拠点が海外へ移っていく中で売上は激減していきます。
4年前、4代目社長に就任した高田氏が基本に据えたことは、「受注型から提案型への転換」でした。
東京の地場産業として指定不況業種に認定されている紙器業界は、東京で2000社あった同業組合参加社が、今では800社。しかし逆に、大手企業の本社が集まり、大消費地・東京だからこそ取り組める仕事が「提案型」と言えます。
たとえば、新製品のパッケージは、製品の形が最終的に固まって初めて着手できるため、製品のイメージを浮き立たせる斬新なデザインと同時に、リードタイムをいかに短くできるかがきわめて重要です。
そこで同社では、デザイナーの指示通りに作るだけという従来のやり方を変えて、メーカーの新製品担当者やデザイナーと直接話し合いながらパッケージデザインを検討できる体制へと持っていきました。いち早く導入したコンピューターを駆使して、一時間ほどで複雑なホワイトダミーを作ることができ、そこからさらに正確な展開図を作ることができるので、質の高いパッケージを短期間で納めることができるのです。
全量検品、ISO取得で社員の意識向上
同社では、年間で2000近い商品を作っていますが、2年前から全量検品を実施。2006年3月にはISO9001を認証取得し、どこでいつ紙を買い、どこの業者が運び、印刷し、どのオペレーターが加工し、だれが検品したか、トレーサビリティも一目でわかります。それによって責任の所在が明らかになるなど、ISO取得に取り組んだことで、社員が仕事に誇りを持ち、意識向上に結びつきました。
クレームも年1、2回に激減し、利益率も向上。社員が「自分が作ったパッケージで商品を売っていたから」と、うれしそうに買ってくることもあります。
障害者も一緒に働くことが自然な会社
同社では、30年以上も前から知的障害のある社員を雇用しており、現在も16人中3人が障害者です。
養護学校から職場実習を受け入れた後、採用しますが、親元を離れて青年寮などで暮らし、「自立」することを条件にしています。単調だけれど、根気と丁寧さが求められる、会社にとって不可欠な仕事が任されています。
「障害者が1社員として働くことが当たり前になっている。それに、彼らの安全を考え、危険な機械に近づくとランプがつく報知器を設置したところ、ほかの社員もその危険地帯に入っていたことがわかるなど、職場環境改善にも役立っている」といいます。
遊び心が新しい仕事を生む
5年前まで自らトップセールスをしていた高田氏。あるセミナーを契機に、がらりと仕事のやり方を変えました。「社長の仕事は、トップセールスではない。本を読み、人に会い、展示会に出かけ、ネットワークを広げながら、次の仕事を探すこと」と気づいたのです。
テレビ取材も多く、「アド街ック天国」に出演したときは、依頼により出演者の山田五郎氏の顔を紙で作ったことが、同社の技術を飛躍的に高めました。
大手の菓子メーカーや化粧品メーカー、教育産業などからは、デザイン的にも技術的にも難しいものが、同社にはまわってきます。
昨年は、武蔵野美術大学の先生から、一緒にやりたいと声がかかり、学生と産学連携で卓上カレンダーの企画製造を行いました。
今後、「日常で使うもので直接エンドユーザーとつながれる仕事を増やしていきたい」といい、さらに「ネット上の仮想空間『セカンドライフ』でなにかできないかと考えているところ」「遊び心がなければ新しい仕事は生まれない」と目を輝かせる高田氏。今年は「環境」分野への進出を視野に、ISO14001の認証取得に挑戦します。
【会社概要】
創業 1929年
設立 1962年
資本金 350万円
社員数 16名
業種 高級印刷化粧箱、ディスプレイ、3DPOP、カレンダー等の企画製造
所在地 東京都葛飾区堀切
TEL 03-3693-2181
URL http://www.85223.com/
「中小企業家しんぶん」 2008年 1月 15日号より
