大地の恵みは大地に還す (株)ロイヤルアイゼン 社長 金 善雄氏(愛媛)

大地の恵みは大地に還す
みかんの丘から循環型社会づくりに向けて
(株)ロイヤルアイゼン 社長 金 善雄氏(愛媛)

 道後温泉から北へ約16キロ、瀬戸内海は斎灘(さいなだ)を見下ろす丘にはりついたみかん畑を縫うように登ったところに(株)ロイヤルアイゼン(金善雄社長、愛媛同友会会員)の総合資源リサイクルセンターがあります。収穫期を迎えたみかんの重たい枝を海からの風が揺らすなか、金社長が出迎えてくれました。

 同社は廃棄物の収集・運搬・処理を中心に展開しており、同センターは松山市第1号の一般廃棄物処分業許可施設として2006年に本格稼働しました。食品廃棄物を高温で発酵させ「完熟たい肥」をつくるプラントを備えた工場です。

「なんとか自然に 返してやりたい…」

 「食品循環システム」の見出しが画面に躍ります。昨年11月、地元テレビ局の環境問題にとりくむ企業や団体を紹介する番組のひとコマです。続いてNHKニュースでも紹介されました。

 中四国エリアに展開する大手スーパー(株)フジと提携し、店舗から出る食品廃棄物を用いて同社がたい肥をつくり地元農家に無償に近い価格で提供、生産された農産物を同スーパーが買い取るという仕組みです。同社と大手スーパー、地元農家の3者で結成している「風早有機の里づくり推進協議会」は、同様のものが全国でも例が少ないことから注目をあびています。同社は協議会の事務局を担当しています。

 フジの食品廃棄物の運搬を約30年間続けてきた金社長。いつごろからか「これらを何とか自然に返してやれないものか」と模索するようになりました。

 また、みかん畑が化学肥料の使用により「地力」を失いつつあることに気づき、「食の安全と安心」の問題が頭から離れなくなりました。

 「農薬漬けで虫が食べない食品を消費者が食べる、どう考えたっておかしい…」。疑問がどんどん膨らむなか出合ったのが、食品廃棄物を用いて良質のたい肥をつくることで「減農・無農薬」の農業に貢献する技術でした。

 プラント工場の建設を決意したのが7年前、念願がかなった2006年の本格稼働でした。

「完熟たい肥」に香りたつ環境哲学

 工場の処理能力は1日あたり19・2トン、破砕した食品廃棄物を高熱で発酵させ「完熟たい肥」をつくります。高熱で処理することで臭いを抑え、汚水も100%循環利用するなどの工夫が凝らされています。

 「廃棄物の処理としてやむを得ずたい肥をつくるのでは、良質のたい肥はできない」と力を込める金社長。農業試験場や営農指導に従事していたスタッフにも入社してもらい、雑菌と雑草の種をとり除き、かつ微生物の活動環境を保つ良質のたい肥づくりという課題に挑んだのでした。

 高温で発酵した「完熟たい肥」は、微生物の活動が活発で、農産物の生産性向上と「地力」の向上に力を発揮して「食の安全と安心」に貢献するほか、たい肥化は焼却処分をするよりも二酸化炭素などの発生を抑制できることから、地球温暖化防止にも寄与します。たい肥づくりに込められた金社長の環境哲学が香ります。

地元の誇りになり得るか

 同センターを建設するにあたっては、2年間かけて地元との話し合いを行いました。地元にとって「迷惑施設」となっては、事業を続けていくことはもちろん、地元農家と提携することなどできません。金社長は「臭いも汚れも出さない、良質なたい肥を無償に近い価格で提供して、生産された農産物の販路を開拓する、そして若者が帰ってくる地域にしたい」と粘り強く訴えました。

 金社長は振り返って言います。「“これはビジネスではない”、この心構えがなかったら理解は得られなかったと思う。ただ金のためだけでは、農家の方々の協力はなかったでしょう」。

 話し合いが実り地元の協力が得られ、現在では地元の約50戸の農家が「風早有機の里づくり推進協議会」に参加し、「食品循環システム」の重要な一翼を担っています。食品の自然的循環だけでなく食品をめぐる社会的循環をつくるモデルとして、同センターには県内外からの視察が後を絶ちません。

 今後の課題として、行政とのタイアップに情熱を燃やす金社長。同友会への思いも強まります。「地域のキーマンは同友会」と力をこめて語る金社長の後では、センター敷地内で有機栽培している野菜の青々とした葉が広がっていました。

【会社概要】
設立
 1986年
資本金 1000万円
年商 3億9600万円
社員数 37名
業種 産業廃棄物・一般廃棄物の収集・運搬・処理、各種リサイクル事業
所在地 愛媛県松山市東長戸1‐3‐22
TEL 089-924-8583

「中小企業家しんぶん」 2008年 1月 25日号より