食に携わる仕事だからこそ、本物を届けたい 農業生産法人こと京都(株) 社長 山田 敏之氏(京都)

食に携わる仕事だからこそ、本物を届けたい
農業生産法人こと京都(株) 社長 山田 敏之氏(京都)

おいしくて安全なものを作るために

 京都市の南部に位置する伏見区竹田。近代的な高層ビルと田園風景が入り交じる地域に、こと京都(株)(山田敏之社長、京都同友会会員)はあります。山田氏が農業を始めたのは1995年、33歳の時でした。アパレル会社やブティックでの勤務を経験した後、実家の後継者として農業を継ぐことになりました。継承は予期せぬことでしたが、もともと食にかかわる仕事に興味があり、「口に入れるものだから、おいしくて安全なものを作りたい」と決心してスタートしました。

 自分が作りたいものをたくさん作るには、一定の売上が必要です。しかし、当時の売上は年間500万円あまり、「やるからには年商1億以上を」と心に決めていた山田氏は、「このままではダメだ」と、それまで作っていた京野菜のうち、通年で出荷できる九条ネギだけにしぼり、品質の向上と合理化を進めました。それでも売上は1500万円程度でした。

農業からアグリビジネスへ

 そこで、京都には「ネギ屋」と呼ばれる特有の産地仲介業者がいることを思いつき、「農家がやってもできるのでは」と思ったことが、生産、加工、販売までを手がけるきっかけとなりました。

 加工とはネギのカットのことで、取引先は主にラーメン店にねらいを定めました。ネギはラーメンの重要な薬味。山田氏は、あえて他府県のラーメン店のチェーン店などに直接営業にまわりました。地元ネギ屋との競合を避けるためです。

 ラーメンブームも追い風となり、売上は急激に上昇し、就農して7年目の2002年には1億円の売上を達成しました。また、社員数も増加してきたことから福利厚生などを考え、有限会社としました。現在の売上は、3億円超、継承した時は父親と2人だった社員数も52名にまでなりました。

ネギ栽培に思いを込めて

 九条ネギは「安全でおいしい本物の食を提供したい」との思いを込めて栽培。エコファーマーの肩書きを持つ山田氏は、可能な限り化学肥料や農薬を使わず、有機資材を用いています。

 夏場は収穫量が低い上に病虫害も多く、商品を安定して確保するためには、苦労をするといいます。また、京野菜の九条ネギは他の品種に比べて日数も手間もかかるが、食味だけでなく栄養価も高いといいます。

卵での本物作りに挑戦

 当初の目標を達成したことで、山田氏はさらにこだわったものを作りたいという思いから、京都市北部に隣接する美山に養鶏場を新たに完成させ、1個100円の卵を販売します。山田氏は「卵は本来の作り方をすると100円になる」と語ります。

 当初は鳥インフルエンザの影響や、1個100円という単価から、大変苦労したといいますが、現在は、その卵を使ったケーキやプリン、会員企業同士で連携した「そばメレンゲ」など多彩な展開を見せています。ネギの残りを鶏のえさに使用したり、杉チップを混ぜ堆肥化したものを鶏ふん堆肥と併用し、ネギ栽培に用いる等、ネギと養鶏のリサイクル農法にも努めています。

同友会と「道場」との出合いで変わった

 山田氏が京都同友会に入会したのは3年前、大学時代の友人からの誘いがきっかけでした。「せっかくだから」と興味のある会合に出席し、その中で「“人を生かす経営”実践道場」と出合います。

 「道場」とは2006年度から開講した、半年間1クールの、経営指針成文化・見直しと経営者の自己確立の場です。「何のために経営するのか」を問い直し、自分自身を見つめ直すことから始めます。山田氏は、「道場」で学んだ会員経営者の変わりようを報告から感じ、即、受講を決断しました。

 受講を終え、「勘と勢いだけで経営をしてきたけれど、それでは駄目だったんだ」と、経営指針を作り上げました。山田氏は「経営指針を作り上げたことで、本当の意味での経営者になれた」と語ります。

 「農業生産法人として人・自然に感謝し、心豊かに社会貢献します」との経営理念を掲げ、「自分が作って食べたい本物の商品の品目をもっと増やし、多くの人に提供したい」と更なる挑戦に意欲を燃やしています。

【会社概要】
創業
 2002年
資本金 500万円
社員数 52名(パート36名含む)
業種 京野菜、九条葱生産・京都美山で卵生産販売、卵を使ったケーキ菓子製造販売
所在地 京都市伏見区竹田中島中道町
TEL 075-601-0668
URL http://miyamanokomoriuta.jp/

「中小企業家しんぶん」 2007年 9月 15日号より