自然界のバランス大事に共生を まるは油脂化学(株) 社長 林 眞一氏(福岡)

自然界のバランス大事に共生を
人と自然にやさしい無添加石けんづくり一筋に75年
まるは油脂化学(株) 社長 林 眞一氏(福岡)

合成洗剤と石けん運動

 無添加石けん一筋に75年のまるは油脂化学(株)(林眞一社長、福岡同友会会員)。ゆったりと筑後川が流れるのどかな田園風景の中に、その本社・工場はありました。

 現社長の林眞一氏は3代目。1932年に祖父が雑貨屋を創業。学者肌で研究好きだった祖父は、単に商品の販売だけでなく、肌にやさしく使用感のよい石けんづくりを目標に研鑽を重ねていたとのこと。45年の敗戦直後、同社ではまだモノのない時代にいち早く牛脂を使った石けんづくりを再開(現在は植物油を使用)。やがて高度経済成長とともに、世の中では、石油を原料とした合成洗剤が市場を席巻していきます。

 70年代に入り、家庭で使われる合成洗剤が大量に自然界に排出されることで、川や湖を汚染し、赤潮などの被害が目に余るようになってきたとき、合成洗剤から石けんに変えていこうと市民運動が盛り上がり、石けんが一躍注目を集めます。その結果、リンを使った合成洗剤の製造が中止されますが、今度は無リンであればいっさい問題ないかのように、テレビコマーシャルなど多額の広告費を使って盛り返し、石けん運動は下火になっていきました。

使って気持ちのよい石けんを

 まるは油脂化学では、こうした時代の波にもまれながらも、企業理念に「健康と地球環境を考えたライフサイクルの創造」をすえ、「人と自然にやさしい」石けんづくりに一貫してこだわってきました。

 同社の原点ともいうべき「生石鹸(なませっけん)」は、天然素材にこだわり、「釜だき」「自然乾燥」という昔ながらの枠練り製法で、乾燥まで90日間かけて造られます。

 「石けん運動が盛り上がったときは、環境への配慮を考えれば、多少使用感が悪くても仕方がない、といった考えもありました。溶けにくかったり、石けん臭が気になったり、といった問題も、環境意識の高い人からすれば、無添加石けんだから仕方がないと受け止め、いろいろ工夫して使っていました。しかし、それだけではより多くの人に使ってもらうことはむずかしいのではないか」と話す林さん。

 まるは油脂化学では、合成界面活性剤や酸化防止剤、合成着色料、保存料はいっさい使わないことを堅持しつつ、自然のミントやラベンダー、ウコン、よもぎなどを練り込むなど、多様なニーズに合わせ、だれもが使いやすく、品質の高い石けんをめざして、商品アイテムを増やしていきました。

 現在は、「LOHAS(ロハス)」に象徴されるように、環境や健康によく、かつ使っていて気持ちのよい質の高いもので、自分のライフスタイルにあっていれば、価格が高くても購入する層が確実に増えています。これは、強い環境意識や使命感が先行したかつての石けん運動とは違い、それを使うことが心地よいと感ぜられることが大きな要素となっており、同社が提供する商品群は、そういった層の気持ちをぴたりととらえたものとなっているようです。

 現在、通販だけでなく、いわゆるLOHAS層が多く住むといわれる地域の自然派商品の専門店などで売上を伸ばしています。

バランスをとって共生している自然界

 「合成洗剤のシャンプーなどを大量に使っている女性が出産したとき、羊水が泡立ち、シャンプーのにおいがすることがある、と聞いたことがあります。口から入った毒は、肝臓などで解毒されますが、皮膚から吸収される経皮毒というものは、そのまま血液に入り込み、体中に毒が回ってしまうといいます。自然界で分解されない化学物質は、できるだけ体内に取り込まない方がいいのです。

 化学物質を使った消臭剤や殺菌剤なども家庭の中にどんどん入ってきていますが、少しでも汚れや雑菌があれば悪、といった風潮があり、あまりにもぴりぴりしすぎているのではないでしょうか。自然界というのは、多様な存在がバランスをとりながら共生してる。そのことを大事にしていきたい」。林さんの話は尽きることがありません。

石けん塗装で国際特許申請

 昨年は、福岡県工業技術センターとの共同開発で、自然派塗料である石けん塗装「WENNEX」(ヴェネックス)を商品化し、国際特許も申請しました。

 石けん塗装は、昔から北欧などで使われている塗装法で、無垢(むく)の木が持つ質感を損なわず、石けんの脂肪分がしみこむことで汚れにくくするものです。まるは油脂化学では、そこに水をはじく撥水(はっすい)性を付加し、赤ちゃんも安心して遊べるフローリングや、桐など無垢の木の色合いや香りを残した家具などで需要を開拓していきたいとしています。

【会社概要】
創業
 1932年
設立 1945年
資本金 1050万円
年商 2億円
社員数 20名
業種 無添加石けん製造・販売、自然派塗料製造・販売
所在地 福岡県久留米市高野
TEL 0942-32-9529
URL http://www.nanairo.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2007年 3月 5日号から