【特集】第35回青年経営者全国交流会(対談)

【対談】人格を認めあって生きること

金子みすゞ、の世界と映画「ヘレンケラーを知っていますか」

 青年経営者全国交流会の2日目に上映された、映画『ヘレンケラーを知っていますか』は深い感動を呼び、すでにいくつかの地域では上映の動きが始まっています。上映に先立ち、同映画のプロデューサー山本末男さん((有)山口映画センター社長)と、同じく方言指導にあたられた木原豊美さん(金子みすゞ研究家)の対談がありました。司会は金巨功山口同友会代表理事がつとめました。

障害者ではなく、人生そのものを描く

 山本さんが映画をつくった動機は、山口県内に住む盲聾(もうろう)の女性Nさんについての記事を読んだことでした。同じ障害を持つ人々のために団体をつくり、運動に取り組んだ生き方、母親の死後、電気もガスも止められた生活のすさまじさ、これらを世界に知ってもらいたいと思ったとのこと。

 選択する権利、労働する権利、コミュニケーションをかわす権利、そのすべてが失われた状況がどういうことか、それに対する日本社会の思いやり、連帯のなさ、それを伝えたかったという思いも吐露(とろ)されていました。氏が描こうとしたのは、“障害者”ではなく、その方の人生そのものだったそうです。

 対談の中で山本さんは日本の映画界について苦言も。日本で制作される映画は年間500本。そのうち公開されるものが100本、興行的に採算が取れるのは10本、うち半分はアニメ。「こうした事態を招いた原因は、日本の大手映画会社5社が、本業を大切にせず、ホテル、ボーリング場などの多角経営に走ったことにある。対照的に、アメリカの映画会社は、窮地に陥った時に、映画づくりという原点に返った。その差が今現れている」と語りました。

人格を認めあって生きること

 一方の木原さんは、民生委員をしていた時、1度Nさんに会ってほしいとの要請を受け、会いに行きました。初対面なのに木原さんを受け入れてくれたNさん。顔や頭をさわり、木原さんがお下げ髪であることがわかると「お婿さん世話しなきゃね」。「孫もいるんですよ」と木原さん。外へ連れ出したところ「何年ぶりだろう」というつぶやき。足元のシソの葉を摘んで鼻先に持っていくと「赤ジソ? それとも青ジソ?」とたずね、小さい時のお母さんの思い出を話してくれ、歌を歌い始めたとのこと。

 “みんなちがってみんないい”ということを実現するのは本当に大変なこととしみじみ語る木原さん、そのためにも映画の上映運動が広がってほしいと映画づくりに加わってきました。

 「“みんなちがってみんないい”ということは、それぞれが好き勝手に生きればいいということではなく、人格を認めあって生きることです」。みすゞ研究家としてのメッセージでした。

「中小企業家しんぶん」 2007年 10月 5日号から