【地域産業視察4】「さがら子生れ温泉会館」を視察して

中同協・企業環境研究センター
静岡・牧之原市で地域産業を視察(3)

行政と連携する地元中小企業の強み
「さがら子生れ温泉会館」を視察して

公設民営の温泉会館

 1日の入浴客が平日で平均750名、土日祭日には1200~1500名にものぼる「さがら子生れ温泉会館」は、静岡県牧之原市西萩間にある公設民営の温泉会館です。東名高速牧之原インターから車で5分の距離にあり、敷地面積2500坪、建物だけで550坪に及ぶ施設は、駐車場170台が完備。天然源泉かけ流しで、内湯と露天風呂、家族風呂があり、無料休憩室や食堂、特産品等の販売スペースもあります。

 もともとは1996年に国からの助成金を主な財源として掘削された小さな町営温泉でしたが、その後、企業からの寄付で現在の施設が建設されるとともに、指定管理者制度によって、経営が民間に委ねられることとなりました。このとき指定を受けたのが、相良市の同友会会員有志10名が立ち上げた(有)さがら産業開発くらぶ(山崎善道社長)です。

会員10社が「地元密着」のコンセプトで

 10名の本業は製造業、税理士、医師、販売業、サービス業など多岐にわたりますが、本業の合間を縫って定期的に会合を開き、さまざまな企画を練り上げてきました。指定管理者制度の応募で提出した企画も、大企業の企画をしのぐ高い評価を得ることができました。

 (有)さがら産業開発くらぶは、指定を受けてから9カ月間の準備期間を経て、2005年12月「さがら子生れ温泉会館」をスタート。支配人は公募で選任し、外部の人材を活用することで、専門性の高い知識・経験に依拠したきめ細かな施設運営が可能になりました。

 オープン当初は、支配人以下5~6人の従業員で施設の管理・運営が行われていましたが、今では従業員30名を超えるまでに成長。来館者数は、オープン当初から一貫して右肩上がりであり、前年度比でおよそ月平均2000人増となっています。

 好調の理由として、周辺地域では珍しい「源泉100%加水なし」という良質な泉質が来館者に受け入れられたこと、入浴施設としての基本を忘れずに常に施設を清潔に保つ努力を欠かさないことはもちろん、それ以上に、施設運営のコンセプトである「地域密着」を画餅に帰すことなく、休憩室で地元特産の日本茶の無料サービスを行ったり、特産品等販売スペースに地元ゆかりの商品を置いたり、地元の住民が参加する青空市場やフリーマーケットを開催するなど、継続的な活動を続けている点も、リピーター増につながっていると考えられます。

会員同士の強み発揮し黒字に転換

 来館者の増加を受け、経営状況も良好です。温泉の利用料金に加え、食事処の売上も1人平均850円と売上は好調。さらに、源泉の温度が約38度と加熱の必要がほとんどないことや、湯量が毎分40リットルと豊富であったことから、水道代・光熱費も当初予想を下回るものとなっています。

 こうした経営努力の結果、町営時代には赤字だった財務状況も、今では黒字に転換。売上の5%を自治体に収める契約となっていますが、今年度は月平均70万円程度を収める予定です。同市の指定管理者制度によれば3年で契約更新となりますが、これまでの堅実かつ誠実な運営と収益状況を鑑みれば、優先的に契約を更新することができると思われます。

 全国的に公設民営の動きが広がる中で、今回紹介した(有)さがら産業開発くらぶの実績は、経営力・企画力に秀でた同友会会員の今後の1つのモデルとなり得るでしょう。会員同士の強みを結集し、さらに地域の発展のために行政と連携していくことで、地元中小企業がこれまで以上に力を発揮していける可能性が開かれているのです。

 とはいえ、牧之原市で今回の試みが成功したのは、同友会の高い組織率とそれに基づく企業間・行政の密接なつながりという基盤があってこその話。将来、地域で事業の拡大・多角化といったさまざまな発展策を展開していく上で、胸襟を開いて語り、協力し合える仲間をどのように増やしていくかが問われているといえるでしょう。

「中小企業家しんぶん」 2007年 4月 25日号から