社員こそ会社にとって最大の財産―(株)ホクシン 社長 細川 式部氏(福井)

他社での勤務経験を反面教師に

 (株)ホクシン社長の細川式部氏は、高校を出てから26歳で創業するまでに、2つの会社に勤めました。そこでの経験が、現在の人育てに反面教師として生きています。

 独立するまで勤めていた会社は、1族が全役員を占め、一切社員に物を言わせない、結果が出ない社員は居づらくなる、会社全体のことを考えて発言しても受け止めてもらえない、そんな風土でした。社員はみじめな思いを抱き、やる気をなくしていく、とても人権が尊重されているとはいえない状況でした。

自由にものが言える会社を

 そういう経験をした細川氏は創業以来、全体にとって良いことなら、何でも言える会社づくりを心がけてきました。自由にものが言えない会社は、きまって若い社員に元気がないと言います。

 若い人と話すことが苦でないという細川氏は「遠慮するな」「上司に対しても批判をしなさい」と言い続けてきました。それまでの生活習慣がしみこんでいて、なかなか言わない人もいたようですが、「社員がきちんとものを言うことは、会社の発展のためにも大事。イエスマンばかりでは会社の将来はない。自分と違う発想をする人、技術・個性・得意分野が違う人が必要」との考えを貫いてきました。

社員を主役に

 また細川氏は、社員を見下したような言動はとらないように心がけてきました。社員を「使う」という意識ではなく、「共に働く仲間」と考えてきました。しかし社員がまだ5、6人の時に、成績が上がらなかったりすると、怒ったり、失礼なことを言ったりしていました。それは会社の売上の大半を細川氏が売り上げていたからです。当然自分が面倒を見てやっているという意識が生まれます。

 そこで、思い切って細川氏は営業をしないよう、担当も持たないことにしました。そのことは社員が主役になっていく上で大きな転換点になりました。

 「採用した以上、やる気になるか否かは会社側の責任」「やる気がなさそうに見える社員には必ず何らかの理由がある」、そう考える細川氏は、ある時元気がなさそうに見える社員の話を聞いてみました。すると個人的な問題を抱え悩んでいることがわかり、それが解決できると見ちがえるほど力を発揮し、売上が3倍にもなりました。

 適材適所ということも大切にしています。学校や官庁を担当していた社員を民間担当にしたら成長した例、売上はどんどん上げてくるけれど回収は甘いという社員、それぞれを認め、得意分野や強みをどう把握し引き出すか。それは豊かなコミュニケーションによって可能となり、中間管理職と社員のコミュニケーションを特に重視しています。

とことん育ちあうという心構えが大事

 「社員こそは会社にとって最大の財産」との考えを裏付けるこんなエピソードもあります。バブル崩壊後の1993年3月期の年商が16.8億円から13.3億円にダウンし、大赤字を出した時のことです。自宅を売り、社屋の移転も考えましたが、社員のやる気が財産だと考え、あえて給料もボーナスも金額をアップし、海外旅行まで行いました。翌年売上は18.3億円に伸び、公私ともに救われました。

 「この5年で退職者は1人。本当の意味で安定してきたことがうれしい。経営者が責任をもってとことん育ちあうという心構えがいちばん大事」(細川氏)。家庭、地域、お客様などすべての場面でプラスの感化力を発揮できる人間性を育てたいと言う細川氏のめあてが実を結びつつあります。

会社概要

創業 1970年
資本金 3000万円
年商 32億3000万円
社員数 35名(内パート3名)
業種 電子計測器、理化学分析機器等の販売、制御機器等の設計製作
所在地 福井市経田
TEL 0776-21-0457

「中小企業家しんぶん」 2006年 2月 5日号より