貧困層を「顧客」に変えるとは~「ネクスト・マーケット」を自立支援の視点から考える

 最近、発展途上国の経済実態について、これまでの「常識」を覆すような見方に接することが多くなってきたと感じます。

 たとえば、バングラデッシュは最貧国のイメージが強く、「最貧国=停滞」という図式で私たちは見てしまいがちですが、実際には1996年度以降、年平均5%以上の経済成長率を達成しています。この「成長を続ける最貧国」の可能性に着目した中国は、積極外交を展開しているようです(日本経済新聞、1月22日付)。

 アマゾン・ドットコムが選んだ2004年全米ナンバーワンビジネス書『ネクスト・マーケット』が翻訳されました。読んで、まず衝撃を受けたことは、良くも悪くも、欧米のグローバル企業が発展途上国の貧困層の生活の奥深くまで入り込みつつあるという事実でした。

 著者は『コア・コンピタンス経営』で有名なミシガン大学のプラハラード教授。同書は、所得階層の経済ピラミッドの底辺、1日2ドル未満で暮らす世界の40億人以上の人々「ボトム・オブ・ザ・ピラミッド(BOP)」を「顧客」に変えた企業の斬新なビジネスモデルを提示し、BOPの人々が援助の対象であっても、ビジネスの対象として考えなかった従来の「常識」を打ち破ります。

 たとえば、「BOP市場の人々はお金がある」という考察。1日2ドル未満の稼ぎしかない人々ですが、人口の多さからいえば、貧困層はかなりの潜在的購買力です。しかも、貧困層は非効率な販売網や中間搾取等によって、物価の高い環境で生活しており、大きな可能性があると指摘しています。

 また、BOP市場はブランド志向であり、「手の届くあこがれ」を感じさせる製品を生み出すことが課題ともいいます。さらに、日当で生計を立て、その日に要るものだけを買うBOP市場に対応し、1回分の「使いきりパック」や、量を少なくした手ごろな値段の製品も、数多く開発されているようです。

 欧米の多国籍企業は、BOP市場で新たな製品・サービスを開発することによって、世界規模のビジネス展開につなげるとともに、先進国市場にも通用するグローバル戦略をめざしている、と同書は分析します。

 では、日本の企業はどうか。今井賢一スタンフォード大学名誉シニアフェローは、「日本企業は…発展途上国の人々が暮らしの中でどのような問題を解決しようとしているか正視してこなかった」と指摘し、企業という大きな単位では難しいので、もっと小さなプロジェクトという単位で取り組むことを提案しています(「日経ビジネス」2月6日号)。

 小さなプロジェクトでBOP市場に接近する点では、兵庫同友会のワット神戸が、モンゴルの遊牧民が使う持ち運び可能な太陽光発電装置を開発し、「ゲル」と呼ばれるテント住宅に電灯を使用できるようにした事例が思い浮かびます。

 本書はもっぱら大企業の視点で描かれていますが、日本の中小企業も、ビジネスの面でNGO等と違った重要な貢献ができるはずです。また、今の時代、BOPの人々の自立支援の視点から、途上国のダイナミズムと人々の暮らしの実態に関心を持つことが、私たちに求められているのではないでしょうか。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2006年 2月 15日号より