全社員の力で地域に自慢できる魅力ある会社に―中沼アートスクリーン(株)社長 中沼 壽氏(京都)

今あるのは共同求人活動のおかげ

共同求人活動を通して企業づくり

 「現在のわが社があるのは、同友会の共同求人活動のおかげです」。中沼壽・中沼アートスクリーン(株)社長(京都同友会代表理事)は、1982年に京都同友会で共同求人活動がはじまり、その当時から活動にかかわるなかで、自らの社内体制を確立してきた様子をしみじみ語ります。

 中沼アートスクリーンは現在国内でも有数のスクリーン印刷の技術力を持ち、高精細化でミクロン単位の印刷を実現。プリント基板やソーラ電池、プラズマディスプレイの生産過程で使われるスクリーンマスクなどの生産に力を入れています。

 日産車体宇治工場閉鎖後、その跡地進出に一番最初に名乗りをあげ、2002年クリーンルームを持つ5階建て宇治工場(のべ床面積5000平方メートル)を建設。府下に本社、3工場を置き、ISO9001、14001を取得した優良企業として高い評価を得ています。

 研究開発型の同社にとって、人材育成は生命線。社是は「魅力」。同友会で学ぶ中、「魅力ある人創(つく)り、魅力ある商品創り、魅力ある企業創り」を追求しつづけてはじめて「今日がある」と中沼氏は語ります。

高卒採用と大卒採用の違い

 共同求人活動をはじめるまでは、高校生を対象に新卒採用していた中沼氏。大阪同友会からの紹介で、京都で就職したいという理工系大学の学生がいることを知り、思ってもみなかった大卒採用を検討することになりました。

 ところが、これまでの高校生の採用では、会社のことを就職希望者に話す機会がほとんどなかったのに対し、大学生を対象にした採用では、「御社では5年先、10年先をどのように考えているか」「この会社の理念は」など、次々学生から質問されます。

 「なんとなくいい会社にしたいと思ってはいましたが、若者に伝えるためにも形にしていかなければ」と、会社の経営理念や方向性など、「何を聞かれてもこたえられるように」文章化。就業規則や給与規定も毎年見直すようになりました。

若者に魅力ある会社とは

 80年代当時は、どんな会社案内が学生に手にとってもらえるか、どうしたら若者が定着する会社になるかなど、共同求人部会で熱心に議論していました。

 「共同求人活動は、中小企業にとってまさに企業づくりの活動。当時は、若者に魅力ある会社とはどんな会社なのか、経営者は何をしなければならないのかなど、よく話し合いました。会社案内を10回も作り直した時期がありました(笑)。みんなで分担して大学訪問し、中小企業で働く魅力を知らせました。またそのことが、自らを検証する機会にもなりました」

同友会で社員も共に学ぶ

 中沼氏が同友会活動に熱心に参加する中、社内に自分がいなくても仕事がまわる状況を作り出すとともに、幹部社員も同友会行事に積極的に誘い、共に育つ関係を大事にしてきました。

 現在では、各部署の責任者が、学歴ではなく人を見て採用を決め、責任を持って育てるような工夫をしています。また、社員一人ひとりの問題意識が明確になるよう、40項目を超える評価を「コミュニケーションペーパー」を通じて社員が行い、社員自ら面談者を決めることができる制度もとっています。

 同友会で社員の定着を検討する中で、会内にQC活動を研究・実践する「企業活性化研究会」(中沼氏は初代会長)も生まれていきました。同社で20年間QC活動を続け、社員自ら職場を改善していくことを奨励するなか、現在では5~6人を1サークルとする19のサークルが社内で活動し、年2回の発表会を行い、各賞が授与されます。いまではその活動も勤務時間と位置づけられ、テーマを決めて取り組んでいます。

 「自ら計画したことは結果を出したい」。そういう社員の思いと実践が、同社の今を作っているようです。

社員の家族が自慢できる会社に

 「社員の提案で、5山の送り火のときには市内にある本社の屋上が、宇治の花火大会時は宇治工場の屋上が、地域の方々の憩いの場となっています」とうれしそうな中沼氏。

 「第2創業が声高に言われるのは、創業するくらいの力で新たな事業展開をしなければ成功しないという状況だからです。それには全社員の力が必要です。社員やその家族が地域で自慢できる会社になるよう、同友会で学び、実践していきたいものです」と強調していました。

【社員から】どこに行っても役に立つ人間に―製版事業部営業部管理課長 山下光次氏

 1982年に中途入社し、最初は製造現場に入りました。物を作ることが好きで、つくったものがお客さまの役に立つことに喜びを感じていました。

 「どの部署に行っても役に立つ人間になれ」と言われ、それは今でも「どこにいっても役に立つ人間になれよ」との励ましのように感じています。

 今は、宇治工場の営業部管理課長を務めていますが、職制としてお客様のためにどのように成果を上げるか、みんなのベクトルを一致させるよう努力しています。コミュニケーションペーパーは、社員一人ひとりが1年に1回提出するものですが、そこには社員の問題意識や悩み、上司への評価が書かれています。

 社員の問題意識を管理職や経営者が相互に共有できる仕組みとして利用しており、私自身が試されるものでもあります。

 社内には青年経営会議という一般社員が10人ほどで経営陣と意見交換する機関もあり、社員の思いが会社運営に反映されていきます。各種展示会に参加すると、わが社は技術力で一歩先を行っているという実感もありますが、社員一人ひとりの力を引き出すために仕事を細かく分解し、教育計画もたて、社員とともに成長していける自分でありたいと思っています。

会社概要

設立 1960年
資本金 4500万円
年商 48億5000万円
社員数 175名
業種 スクリーン印刷、スクリーン製版、メタルマスク、フォトマスク、スクリーン印刷用諸資材・機械
所在地 京都市右京区太秦安井奥畑町
TEL 075-841-9301
http://www.nakanuma.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2006年 9月 5日号より