【運動としての経営指針づくり】宮崎同友会の実践

 中同協が活動方針で経営指針(理念、方針、計画)づくりを提起した1977年から約30年。経営指針は実践を伴って初めて企業を変え、地域を変える力となっていきます。本紙連載第3回目は、経営指針成文化の活動を、人が育つ風土をつくることで強靱(きょうじん)な企業をつくる活動と位置づけ、活動の再生に取り組んできた宮崎同友会を紹介します。

人が育つ風土をつくるために

経営指針成文化活動の深まりと広がりを求めつづけて【宮崎】

 
創立以来、指針づくりを活動の中軸に

 宮崎同友会では、1992年の創立以来、経営指針成文化の活動を中軸にすえてきました。1泊2日や2泊3日の合宿スタイルや、入門コースとして経営理念の成文化、発展コースとして方針と計画づくりと、学びあいの場づくりには試行錯誤を重ね、2003年までの11年間で延べ124名(内17名は退会)の会員が参加し、会員の強じんな企業づくりに大きな役割を果たすとともに、参加者に勇気と知恵をおくりつづけていました。

 しかし、2000年ころから参加者が少なくなったり、限られたり、特定支部のみの開催であったり、あるいは理念と方針と計画の作成講座が別々に開かれ、連続しての参加がなかったり、などといった状況が目立つようになりました。

 経営指針成文化活動の展開に広がりと深まりを欠いてきている事態がつづくと、この活動はますます停滞し、ひいてはこれを核とする宮崎同友会の活動も形骸化する危険があるという危機感を、当時の理事会は持ちました。

人が育つ風土をつくることを基本に再生へ

 このような事態がなぜおこったのか。理事会では、2003年4月から半年、経営指針成文化の活動を、人が育つ風土をつくることで強靱な企業をつくる活動と位置づけ、再生へ取り組んできました。そのなかから、(1)経営指針成文化の活動の原点が忘れられつつあること、(2)それとともに、経営指針作成が個々に分離して、全体性を失っていること、(3)あわせて、成文化活動を運動としてとらえ、その推進を担う主体者の育成が遅れたこと、を反省点としてまとめました。

 その反省のもとに、次の3点を確認しました。

 (1)経営指針作成の根底には、「労使見解」の精神があり、経営者の「何のために経営するのか」の基本姿勢の確立と、「どんな困難があっても」の経営者の責任の自覚が原点となること。(2)その原点を確認した上で、その思いの表明として理念があり、その理念実現への科学的・社会的展開として方針と計画があり、その3つの全体的かかわりあいこそが、経営指針の三位一体の構造であること。(3)経営指針の成文化を同友会で学び実践することで会社を強靱にしている経営者が、次の人たちの成文化のパートナー(助言者・講師)となる循環をつくることで、成文化活動を担い、さらには同友会運動の主体者となっていくこと。

「つくる会」で共に育ちあう循環を

 こうして誕生したのが「経営指針をつくる会」でした。第1期は2004年4月から12月までの全9講座としてスタート。初めて経営指針の成文化に取り組む会員から数回目の会員まで16名が受講。また、これまで経営指針成文化の活動に参加してきた役員の中から、9名が助言者として毎回参加しました。共に高いレベルで学びあい、参加者の間には強い連帯感も生まれました。

 それから2年半。この8月19~20日は、第3期の最終講座として、1人ずつ経営指針発表と模擬重役会議を行い、その中身を点検しあいました。経営指針を柱に社員と共に育ちあう社風づくりの実践を誓い、経営指針の社内発表日を宣言。終了式での晴れがましい顔、あちこちでかわされる固い握手。

参加者の声を励ましに新たな課題へ挑戦

 10月からは第4期がはじまります。回を重ねるごとに受講生が減っているという現実、卒業生の実践の交流の場づくり、助言者の拡大など、新たな課題も生まれています。

 (1)同友会役員自らが経営理念づくりの大切さを理解している支部ほど成文化の必要性を認識し、参加も増えている。(役員自身をまきこむ)
 (2)何回も継続して参加するなかで、指針にもとづく経営の意義を深め、実践も深まり、体質も強靱になっている。(継続の中からの指針経営の深まり)
 (3)中核となって呼びかける会員がいる支部ほど参加意欲が高まっている。(中核となる会員の育成とそうした会員の実践の発信)

 「何のために経営をするのか軸ができたことが役に立っている」「経営理念の発信が、社長を、社員を鍛えてくれる」といった参加者の声が、継続の励ましとなっています。

「磨く」ことに徹して自立型企業へ

 (有)籾木工業 専務 籾木真一郎氏(宮崎)

 籾木(もみき)氏が「経営指針をつくる会」(以下つくる会)に参加したのは、父親が創業した会社に入って10年目の昨年1月のことでした。

 大手電気機器会社の下請けで安全部品・コイル・セラミックなどを製造している同社ですが、海外への移転がすすんでいます。このままではいけないと感じる中で同友会と出合い、新しい仕事をつくり、市場を開拓していくことが緊急の課題であり、2代目としての自分の任務だと自覚しました。

 とはいえ、そんなに簡単に見つかるものではありません。社内では話すこともできず、1人で悩んでいたころ、つくる会のことを聞き、「ワラをもすがる思いで参加した」と籾木氏。

 その少し前、ある例会のグループ討論で、本業は何かと問われました。

 「会社の歴史を振り返ってみると、親父(おやじ)はそもそも研磨の仕事をしており、その技術の高さをかわれて下請けの仕事をこなせてきたわけです。そのことに思い至って、すぐに『おれに研磨を教えてくれ』と親父に言ったんです。親父はビックリしていましたが、うれしそうでした。これだ、と思いましたね。それを軸にして会社の将来を見据えていこう、そのためにしっかりととらえなおそうと、つくる会に参加しました」。

 技を心を磨くという意味をこめて、「磨く」を柱に経営理念をつくりました。

 すぐに社長である父親に報告し、担当している部門で発表。そして、経営理念を毎日唱和するとともに、何か問題が起きたり、考え方が食い違った時など、理念に即して社員と話し、考えを説明するようにしています。「社員も積極的になり、とくに将来のリーダーが自覚を高めてきているのがうれしい」といいます。

 この春には、2つある工場のうちの1つが元請けの都合で閉鎖となりました。いよいよ研磨で自立していかなければなりません。技術の伝承をしっかり果たし、工業用への売り込み、農業用への市場開拓と営業面での課題もあります。

 これからは研磨・部品事業の全体、そして籾木工業全体を考えながら、下請けでなく、自立型企業をめざし、将来的には「磨く」ということを幅広くとらえていけるように、関連分野ももっと勉強し、事業領域の拡大をはかりたい。「同友会は私の経営の道場」と力強く語ります。

 ラグビーで鍛えた「つないでいく」精神は、籾木氏の中に脈々と受け継がれています。

【会社概要】
創業
 1984年
資本金 500万円
年商 2億5000万円
社員数 91名(内パート32名)
業種 抵抗部品・設備部品・木工用刃物の製造、研磨
所在地 宮崎市佐土原東那珂
TEL 0985-72-0135

「中小企業家しんぶん」 2006年 9月 5日号より