【特集 各同友会の合同入社式・新入社員研修】一人ひとりが主人公・よい人生を自らの手で

 この春、各同友会では合同入社式、新入社員研修会が開かれています。新入社員も不安と期待を胸に、社会人としての一歩を踏み出しました。本特集では、神奈川・合同入社式での記念講演、滋賀・合同入社式での先輩社員の言葉、岩手、熊本、東京の合同入社式、新入社員研修の様子を紹介します。

<合同入社式・新入社員研修から>
新入社員から頼れる先輩へ~会社をこえた地域ぐるみでの人育て【岩手】
自分づくりに励んでほしい~新入社員と社長がじっくり向き合う【熊本】
チャレンジする勇気もって~社会人としての学びがスタート【東京】

<経営者からのメッセージ>
人の役にたってこそ仕事~中小企業で働くとは、学ぶとは、生きるとは
 (株)開明製作所 社長 石館 治良氏(神奈川)

<先輩社員からのメッセージ>
あてにされ、こたえる喜び
 (株)ビイサイドプランニングメディア事業部 卯田 武さん(滋賀)


合同入社式・新入社員研修から

新入社員から頼れる先輩へ~会社をこえた地域ぐるみでの人育て【岩手】

 4月2日、岩手同友会ではマスコミ5社が取材に訪れる中、新入社員合同入社式研修会が行われました。13回目を迎える今年は、これまでで最も多い18社、34名の新入社員が参加。また岩手県や盛岡市からの来賓を迎え、総勢75名での入社式となりました。

 岩手同友会では一昨年から共同求人活動を開始し、合同企業説明会を継続して開催しています。経営者がブースで自社の経営理念を熱心に伝える姿に学生が共鳴、「同友会の求人は単なる人採りではない」と次第に行政やマスコミが同友会の活動に注目するようになりました。

 また、共育懇談会では学校関係者のほか、行政、ハローワーク、PTAの方々もグループ討論に参加し、「どうすれば人が育つ地域をつくれるか」を一緒に議論してきました。そうした積み上げが、今回の新入社員合同入社式研修会にも現れました。

 「これからが人生の本番」をテーマに記念講演に立ったくずまき高原牧場の木村元恩さんは、昨年入社したばかりです。子どもたちに命の大切さを伝えるしごとに自分の人生をかけたい、と医大を中退し、葛巻に移住。「夢しか実現しない」、その言葉は参加者全員の心を揺さぶりました。

 また研修会で体験発表した(株)あさ開の竹下洋平さんも同じく昨年入社したばかりの19歳です。「辞めたいことは何度もあった。でも地域のお客様が入社1年目の私を頼って来てくれる。そんな思いにこたえたいからどんな壁も乗り越える」と力強く新入社員を激励しました。

 討論では幹部社員がグループ長になり、他社の新入社員にかかわります。その一生懸命さに、いつしか新入社員の緊張もほぐれ、表情に笑みがこぼれてきます。昨年は初々しかった新入社員が頼れる先輩に。そんな育ち合う姿を経営者が温かく見守ります。

 岩手同友会では「会社を超えて地域の中で一緒に若者を育てていこう。地域ぐるみで人育てに取り組もう」と、共同求人や社員「共育」の取り組みから、人育ての気運が地域に少しずつ広まりつつあります。


自分づくりに励んでほしい~新入社員と社長がじっくり向き合う【熊本】

 桜が満開の4月2日、熊本同友会第21回合同入社式が開催され、16社28名が参加しました。

 冒頭、米村浩幸代表理事が、「中小企業は日本経済の大黒柱。存在意義に誇りと自信を持ってほしい」と祝辞を述べ、先輩社員の(有)呉服薬局の城本文さんが「受身では何も始まらない、自分から動くことで、見えてくるものがあります。いろいろな経験が、自分自身をつくっていきます。一緒にがんばりましょう」と熱いエールを送りました。

 それをうけて、新入社員の(株)トータルインフォメーションの西川晃さんが「自信を持って何事にも挑戦し、人からあてにされるような社員になります」と決意を述べました。記念品贈呈の後、冨永寿彦代表理事が「本当の勉強は今日から始まります。同友会では3つの目的『よい会社、よい経営者、よい経営環境』を目指していますが、新入社員の皆さんには『よい人生』を加えて、自分づくりに励んでほしい」と述べ、入社式を終了しました。

 続く新入社員研修会では、5つの挑戦と題して、「法律ミニ講座」、先輩社員の経験発表、会員経営者が社員に対しての熱い思いを発表。発表後は、「考えてみよう! 何のために働くのか」「語り合おう、自分への挑戦」と2度のグループ討論を行い、グループ長を社員共育大学で学んだ先輩社員が務めました。そして、社会人としての基本マナーを学び、最後の「自社の社長と語ろう」では、社長と新入社員が、じっくりと向き合い語り合う、貴重な時間となりました。

 最後に、小坂隆治共育委員長が「何のために働くのか、この2日間の学びを自分のものにしてほしい」とまとめを述べました。

 今回は、昨年、熊本学園大学で初めて開催した合同企業説明会で採用が決まった企業も参加しており、地域の連携で若者を育てる記念すべき一歩となりました。


チャレンジする勇気もって~社会人としての学びがスタート【東京】

 4月3~5日、千葉県内で、東京同友会の「2007新入社員研修」が開催され、「豊かな人間力で、切り拓(ひら)こう未来を」のスローガンの下、66社237名の新入社員(研修生)と39名の運営委員(会員経営者と幹部社員)が学び合いました。

 「これから社会人としての本当の学びが始まります」という新入社員研修実行委員長の市原芳夫氏((株)富士国際旅行社)のあいさつで始まり、企業で働く意味や仕事の進め方、ビジネスマナー、生きがいを求めてなど、幅広い視野で社会人としての基礎を学習しました。

 第1講義「企業で働くことの意味」では、青木豊氏((株)システムクォート)が「そつのない成果からは、何も得られない。真の成果を求めるなら、失敗を恐れないでほしい」と話し、研修生たちにチャレンジする勇気を持つことを求めました。

 第5講義「君達の時代」では、猿渡盛之氏((株)サヤカ)が、「企業はみな代えがたい固有の使命と役割を持っており、社員一人ひとりが主役。企業の将来は、一人ひとりの成長にかかっている」と述べ、研修生たちを激励しました。

 講義後のグループ討論では、新社会人として働き始めることに対する不安や戸惑いを出し合いながら、それらをどのように克服していくのかなどについて真剣に交流。引き続き行われたディベートでは、自分の意見を相手に効果的に伝えることの難しさを実感するとともに、仲間で力を合わせることでそのことがより可能になるということを学びました。

 3日間の研修を通じて、お互いに本音で交流し、励まされることで、研修生は表情が明るくなり、気持ち新たに仕事に取り組む決意をし、社会人としての一歩を踏み出しました。

中同協事務局 田井 康仁


経営者からのメッセージ

人の役にたってこそ仕事~中小企業で働くとは、学ぶとは、生きるとは
 ―(株)開明製作所 社長 石館 治良氏(神奈川)

学び方を学ぶ

 学生時代に「学ぶ」ということは、「学ぶための基礎を学ぶこと」であり、社会人が「学ぶ」ということは「学び方を学ぶ」ことです。では「学び方を学ぶ」とはどういうことでしょうか。

 それは、人の役に立つために知識や能力を身につけるということです。なぜなら、仕事とは人の役に立ってはじめて仕事になるものであり、役に立たなければ仕事にはならないからです。たとえば、何かの商品を作ったとして、それが役に立つ物ならば売れますが、役に立たないものならば評判は良くはないでしょう。難しいこととは思いますが、これからの社会生活の中で、何が役に立つのかを急がず、焦らず、諦めずに考え続け、身につけていただければと思います。

 私にとって学びの第一歩は、世界のことを知ることからでした。「自分はどのような社会で生きようとしているのか…」これを知るには世界を、日本を知れば、世の中が見えてきます。

現代日本の閉塞状況と近世

 日本は、バブル崩壊後にたくさんの問題を抱えており、危機的な状況を迎えております。しかしながら、道が閉ざされ閉塞状態になったときこそ、新たな時代を築くチャンスでもあるのです。歴史をひもといていくと、先人たちが時代を切りひらいた事例は山ほどあります。

 ヨーロッパ近世、日本近世に目を向けると、皆さんもご存知の、(1)コロンブスのアメリカ大陸発見、(2)種子島への鉄砲伝来、(3)イギリスの産業革命という3つの歴史事象があります。

 実は、この3つの歴史事象には、すべてつながりがあります。それは、東ローマ帝国の滅亡と、オスマントルコの台頭がもたらした結果なのです。

 トルコにはイスタンブールという都市があります。イスタンブールはかつてコンスタンティノープルと言って、15世紀中ごろまで東ローマ帝国の都として栄え、地理的にもヨーロッパとアジアをつなぐ要衝でもあり、穀倉地帯の黒海沿岸の入口に位置する重要な場所でした。文化的にもキリスト教の中心地として重要な場所でしたが、イスラム勢力のオスマントルコによって滅ぼされてしまったのです。つまり、当時の有名なベニスやジェノバの商人たちにとって、黒海貿易の道が完全に閉ざされてしまったわけです。

 当時のヨーロッパの強国は現在とは違い、スペインとポルトガルでした。この2つの強国は黒海貿易の道が閉ざされた結果、ある密約を交わします。貿易の道が閉ざされてしまったからには、「もはや海に出るしかない」と考えました。つまり、スペインとポルトガルで、世界を2つに分ける…西半分をスペインが、東半分をポルトガルが支配しようと考えたのです。

 当時の「海に出る」ということは、常に死との隣り合わせということです。まだ「地球は丸い」という説がようやく理解されてきた時代です。「もしかしたら2度と帰って来られない」という中で、先人たちは時代を切りひらいてきました。

新社会人の皆さんへ

 現代の日本社会・地域社会には、さまざまな問題が山積していますが、それらの問題に立ち向かっていく若い力を持った人を私たちは待ち望んでいます。それが皆さんです。

 これから結婚し、所帯を持って子どもが生まれ、子どもたちが成長した時にどのような「バトン」を渡せるのか、それが皆さんのこれから数十年にわたって繰り広げられる壮大な社会人としての仕事です。皆さんの祖父母もご両親も、皆そうやってバトンを渡され、そのバトンを渡してきました。

 何が人の役に立つのか、何をどうすれば良いのかを考え、地域を活性化させてこれらの問題に立ち向かっていっていただきたいと思います。


先輩社員からのメッセージ

あてにされ、こたえる喜び
 ―(株)ビイサイドプランニングメディア事業部 卯田 武さん(滋賀)

 3年前、私も皆さんと同じくその席に座り、社会人の第一歩を踏み出しました。

 当社は現在40名のスタッフですが、当時は15名。当時はこじんまりした感じと思いましたが、先輩は皆元気で活気ある会社でした。

 入社して、すぐに先輩の営業に同行。右も左もわからないまま連れられ、少しずつ営業を覚えていきました。また社内では、締め切り間近の出版物の仕事。先輩がテキパキと仕事を進めておられるのを見て、学生時代とのギャップ、何も手伝えない自分の無力さを痛感しました。気持ちが空回りし、急性胃腸炎でダウンするなど、今思えば恥ずかしい限りです。しかし、先輩に助けてもらいながら仕事を引き受けられるようになりました。

 振り返ってみると、失敗を失敗と感じない、記憶に残っていないくらい走り続けていました。

 また、気持ちは「かわいい新人さん」でしたが、責任ある仕事をじゃんじゃんさせていただける。これが中小企業の醍醐味ではないかと思います。

 大きな壁にぶつかったのは、3年目の冬、直属の上司が退社することになり、実質責任者になったときです。できるスタッフはついてきてくれるのか、いろいろ考え、苦しくなりました。そんなときに社長から「どん底まで悩んでみろ」とアドバイスを受けました。そのとき、変わろうと決心しました。

 わが社の経営理念は、「私達は滋賀の情報発信を通じて人と企業を元気にします!」です。仕事を任され、頼られ「ありがとう」と言われる、これが働く基本的な喜びであり、当社理念の第一歩だと思いました。

 働く意味はお金や身内のためだけでなく、人としてあてにされ、こたえる喜びだと思います。

「中小企業家しんぶん」 2007年 4月 15日号より