社員が成長・自立できる会社に―(株)丸竹 社長 服部 勝之氏(愛知)

若い社員の採用で、社長が変わり会社が変わる

 7月26~27日、愛知で開かれた第24回中小企業労使問題全国交流会から、(株)丸竹の服部勝之社長の事例報告の概要を紹介します。

社員はお金で動くものと思っていた

 私は大学卒業後、3年間サラリーマンを経験したのち、25歳で丸竹に入社。31歳の時に専務になりました。

 当時の私は、それまでの上司が、責任逃れで何でも私に判断を聞いてくるようになったことや、社員の1人が突然「今日で辞める」と言って帰ってしまったことから、社員は働く対価としてお金をあげるだけの関係だと思うようになりました。会社を一緒にやっていくパートナーとは思っていませんでした。

共同求人活動から、理念を語る大切さを学ぶ

 その後、1993年に社長に就任します。ある時、長い間働いてくれていた社員が、「新しい社長についていく気はない」と話しているのを聞き、ショックを受けました。しかし、「自分の力で社長になった訳じゃないし、そう思われても仕方がない。これからは、自分が一緒にやっていく社員は自分で採用しよう」と考え、愛知同友会の共同求人活動に参加しました。

 95年に初めて合同企業説明会に参加し、幸いにも4名の社員を迎えることができました。当時の私の目的は「人採り」です。育てることは社員に任せていました。翌年、7名を採用し、2年間で11名。しかし、その2年間に全員が退職しました。その後も数名採用しますが、3年続く人はいません。

 原因を探ろうと、共同求人に参加しているほかの会員に話を聞いたところ、社長である私が、「会社をこうしたい」という理念を熱く語っていなかったことに気づかされました。

自分の間違いに気づく

 そんな中、A君が会社説明会にきました。志望動機は、うちが昔から作っている丸愛納豆の大ファンで、大好きな納豆を自分でつくりたいとのこと。採用も決まり、「こんなにうちの商品を純粋に愛してくれる社員を大事にしなければ」と初めて思いました。

 しかし、今の会社の状態では、またすぐ辞めてしまいます。

 新入社員が続かない理由の1つに、社員の仕事の教え方の問題ががあり、これを何とかしようと、真剣に考え始めました。

 教えるとは、(1)自分の仕事を理解する、(2)相手に伝える方法を身につける、(3)相手が何を聞こうとしているのかを理解する努力をすること。つまり、まず自分自身を見つめ直し、磨きあげ、自分の分身をつくることです。

 そう考えた時、自分の中の矛盾に気づきました。私が社員に求めていることは、社員自身の成長です。なのに、社員はお金のために働いていると思っている。自分の間違いに気づきました。これからは、社員に成長してほしいということをお願いしなければと思ったのです。

 「こういう人を採用して、こんなふうに育ってほしいんだ。協力してほしい」と社員にお願いしました。すると、社員は「やってみる」と言ってくれたのです。そして、私の作った研修プログラムをもとに、実践してくれました。A君も半年で全部覚えてくれました。これは、A君の優秀さだけでなく、社員の努力があってできたことだと思います。

B君に教えられたこと

 社員の成長を願う一方で、社員は、毎日同じ仕事しかしていないことに気づきました。そこで私は、朝礼など、いろいろな形で「学ぼう、目標を持とう」と話をするようにしました。しかし、社員は今までは言われたことをやっていれば良かったため、自分の期待することがなかなか伝わらず、社員との距離が遠のいていく感じがしていました。

 そうした中、新しい設備を導入した工場に見学に行く機会があり、社員と一緒に行くことにしました。課長に相談したところ、B君と行くことになりました。実は、B君は私の一番苦手なタイプで、のれんに腕押し的で、反応がないタイプです。また、遅刻の常習であり、私が「クビにしろ」と言った社員でした。しかし、課長が「彼以外はダメ」というので、仕方なく1泊2日で一緒に見学に行きました。

 見学から帰ってくると、彼は、すっかり変わっていました。話を聞くと、見学の際「新しい設備は立派だが、その設備がいつも正しく動かなければ意味がない。整備をしておくことも工場の大事な仕事。あなたも機械をさわるなら、自分の担当している部署の機械は自分で保守管理しなさい」と案内してくれた社員に言われたとのことでした。

 今では、打てば響くようになり、社内の5S運動の講師も担当。「社長、こうしたいんですけどいいですか?」と言葉をかけてくれるようになったのです。

 なぜ課長がB君と一緒に行かせたのかが分かったような気がしました。社員同士は普段コミュニケーションをとっており、B君は機械いじりが好きで、遅刻はするけど悪い人じゃないということを知っていたのです。だから、課長は自信をもってB君を連れていくように言ったのです。

 表面だけでとらえてしまうと、大事な社員を失ってしまう、B君の話を聞いてそう思いました。

社員の支えがあってこそ社長の役割を果たせる

 「社員の成長が会社の成長につながる」ということが、やっと実感できるようになってきました。社長は、社員が支えてくれるから、いろんな方向に目を向けられるのです。社員なしでは、何も見えないのです。

 社員に「ついていく気はない」と言われ、自分で社員を採用すると決め、失敗しながらも続けてきた。これがなければ、私は今ここにはいません。また、社員がお金のために働いているだけであれば、とっくに会社はありません。ベテラン社員、新入社員、みんなのおかげでいまの会社があります。これからもパートナーとして共に支えあっていきたいと考えています。また、自分の立ち位置を見誤ることなく、パートナーである社員の働く環境を整えていきたいと思います。

【社員から】お客様に喜ばれる商品をつくる

上村 仁博さん

 私の仕事は、主に製造の「充填(じゅうてん)」と「発酵」という現場の管理です。具体的にはラインの保守メンテナンスと、そこで働くパートさんの管理です。

 機械設備が故障し、それを私が直した時に、作業をしているパートさんから「ありがとう」と感謝をされることに働きがいを感じています。

 この会社は、食品を扱っている会社ですから、何よりもお客様が安心して食べられる商品を目指しています。安心・安全な商品づくりがモットーです。将来的には、「丸愛納豆」という名前を、だれもが知っている会社になればいいなと思っています。

平尾 枝里佳さん

 私は大学で生物化学の勉強をしており、食品を作る会社に興味がありました。

 現在は、品質管理の仕事をしています。工場を見学されたお客様からの礼状やクレームの手紙には、「いつも食べています」と書かれています。やはり、いいものを作らなければと思います。「お客様に喜んでいただける製品づくり」が基本だと思います。昔から納豆を食べていただいているお客様はもちろん、新しいお客様も手に取ってもらえるような製品をどんどん作っていきたいです。

会社概要

設立 1948年
資本金 4000万円
年商 8億5000万円
社員数 正社員 23名、パート 75名
業種 丸愛納豆、こんにゃく、ところ天、わらび餅の製造、及び販売
所在地 愛知県春日井市庄名町913
TEL 0568-51-1350
http://www.mb.ccnw.ne.jp/maruai/

「中小企業家しんぶん」 2007年 8月 15日号より