地域の人を育てる―(有)ささきグループ 代表取締役 佐々木 哲雄氏(広島)

社員と家族のように向き合って

 「共学・共育・共生」では、育ちあう社風づくりに励む全国の会員企業を紹介しています。今回は、家族のように向き合い、理念を共有して同じ夢をめざしている、(有)ささきグループを紹介します。

社員を尊敬しています

 「彼とは一番長い付き合いになる。一番怒ったが、ずっと私についてきてくれた。私は彼のこと尊敬しているんだ」。佐々木哲雄氏((有)ささきグループ代表取締役、広島同友会会員)はそう言って社員の遠木眞一さんを紹介しました。遠木さんはもっとも社歴が長い社員で、高校の時のバイトから数えて今年で15年目です。親が「手に職を」と言ったのがきっかけで、別にこの仕事がしたかったわけではないと話す遠木さん。しかし、「今はこの仕事をしてよかったと思っている。お客さんに自分を知ってもらえて、『またお願いします』と言ってもらえる。それが原動力です」と言います。

 遠木さんは社長に出会えてよかったと思うことを「本気で怒ってくれるところ」と言います。「技術が下手だから、失敗したからといって怒ったことはない。できることをしない(行儀が悪い、横着する)ことには本気で怒ります」と佐々木氏。社員を家族のように思って接しているという佐々木氏は、今期の経営指針にも「日々業務に励んでくれる社員のみんなのおかげと、心より感謝します」と書きました。

社員と正面から向き合って

 (有)ささきグループは、呉市内に4店舗を展開、今年で創業33年目のヘアーサロンです。社員の平均年齢は20代で、地元呉の人たちです。「うちには4分の3以上はいろんな問題を抱えた子が来ます。1キロメートルが何メートルかわからなかった、県立高校を卒業しても自分の住所を漢字で書けなかった、そんな子が働いている会社です」と言います。

 中学校のころに不登校で引きこもっていたけれど、1週間の職場体験を通じて「ここで働いてみたい」といって働きはじめた社員や、引きこもりになって高校を中退、それで相談を受けて(有)ささきグループに就職した社員もいます。

 「そういう子に、大学を卒業したと思って4年間耐えろ。4年間、金もやるしメシも食わす。だけど辞めることだけは許さないと言っています。それでも辞めると言い出したり問題を起こす。そういう中でも向き合って一生懸命やっていく。その社員が結婚し、赤ん坊ができ、自分の子どもを連れてきて、会社の一員として社員の集合写真に写りたいと言った時は、すごくうれしかった」。そのことを就職面接の時一緒に来た高校の先生に話したら、「社長のおかげです。本当にありがとうございます。社長と出会えなかったら彼の人生はどうなっていたか」と感謝された、と語る佐々木氏は生き生きとしています。

社長みたいになりたいです

 本店の店長をしている角谷真理さんは、「社長のこと、多分みんな好きだと思いますよ。将来どんな人になりたいか聞かれたら、きっとその中の1人に社長が入る。怒ったり厳しかったり怖かったりするけど、熱いんです」と言います。

 「この会社に入って、みんな人間的に成長するということを考えるようになりました。みんな、『今日の仕事とりあえず終わらせればいいや』という気持ちで働いてはいません。毎日、企画、キャンペーン、学校訪問など何らかのところで責任をもって自分で考えて動いています」と自分の経験を交えながら話します。

地元・呉へのこだわり

 もともと佐々木氏はカット技術の社会的評価も高く、一時は神戸、小倉、久留米、長崎といった西日本の各地で講習会を開いていたほどでした。店を出すから神戸に来てほしい、広島市内に店を出せばもっと儲かる、そう言われながらも佐々木氏が呉にこだわる理由を聞いてみました。

 「33年間呉でサロンを経営していると、親子3代にわたってきてくれるお客さんもいる。そうすると、子どもの時に『じっとしとけ』と言って髪を切った子が、親になって自分の子どもを連れてくる。そして今度は子どもに『じっとしておけ』と言う。私が『あんたも大変じゃった』と言うと、それを聞いたおじいちゃんが『佐々木さんには本当にお世話になった』と笑う。そういうつながりはなくしたくない。そういうのはお金では買えません」。

 「いま高校生でアルバイトに来ている子が、うちで働きたいという。その子の親父はもともと不良で、私がずっと面倒をみてきた。地域の人が私をアテにしたり、うちの会社をアテにしたりしてくれる。不良少年や不良少女を集めて、1人でも2人でも一緒に働いてよかったなと思える場所をつくりたいんです」。

会社を大きくして 地域をつくりたい

 佐々木氏は、独立して5年目に最初に雇った社員から「辞めたい」と言われました。その理由は「自分がこの先どうなるのか見えない」というもので、佐々木氏自身が独立する前に持っていた不満と一緒でした。

 「自分はそういう経営者になりたくなくて独立したのに、独立して5年たって実は自分がどうだったのだろう。言っていることとやれていることが違う中で、同友会に学びを求めたのだと思います」。現在では広島同友会の総務組織委員長になり、9月に行われた中同協広報・情報化交流会では特別分科会「時代の要請にこたえられる同友会とは~『地域力経営』を考える」の座長も務めました。

 「いま、居場所のない子ども、大人がたくさんいます。もし行く場所がないならうちの会社に、と言えるような会社にしたいんです。自分の子どもを働かせたいと思えるような職場にしよう、地域にそういう場所をつくろう、と社員には言っています。会社を大きくして、その輪をアメーバのように広げていって、みんなで役割分担して地域をつくろう。自分の代だけでできるかはわからない、だけどだれかやってくださいと言っています」。

 「1、私たちは、よりよいサービスと、より確かな技術で、お客様、ひとりひとりに満足と感動をして頂くことを目指します」「2、私たちは、オーナー制度を実践することにより、働くひとりひとりが、豊かな生活と明るい将来を築くことができ、平和な地域社会づくりに役立つ人間集団を目指します」という経営理念を掲げる(有)ささきグループ。「しんどい時もあるけど、つらい時に結局戻るのは理念なんですよね」。角谷さんのこの言葉には、しっかりと佐々木氏の思いが受け継がれています。

会社概要

設立 1975年
資本金 300万円
年商 9000万円
社員数 14名
業種 理容業、美容業、化粧品販売
所在地 呉市本通5丁目9-21-102
TEL 0823-24-1058

「中小企業家しんぶん」 2007年 11月 15日号より