総合力つけ、地域から頼られる企業に

2008年をどう迎えうつか―同友会運動、次の半世紀へ

 昨年は同友会創立50周年を迎え、その歴史と理念に学びながら、年末には13年ぶりに4万名会員を突破しました。来年は中小企業家同友会全国協議会(中同協)設立40周年。新たな半世紀へスタートを切った2008年をどう迎えうつか。鋤柄中同協会長と広浜中同協幹事長が対談しました。

[出席者]
鋤柄 修氏:中同協会長/(株)エステム会長(愛知)
広浜泰久氏:中同協幹事長/(株)ヒロハマ社長(千葉)

[司会]
蓮見成男氏:中同協事務局長

[1] 2008年を展望する~不安材料の多い年明けだが

司会(蓮見) 同友会の景況調査DORによると4期連続して、業況判断DIが下がっています。大企業景気と中小企業景気の二極化、都市と地方の格差、消費の低迷、原油・資材の高騰、建設業界の確認申請の遅れなど不安材料が多い年明けとなりました。まず自社と業界を取り巻く状況についてお話しいただけますか。

市場縮小するもシェア拡大

広浜 わが社は、化学製品、食品などの業務用缶(かん)のキャップ1200種類を中心に製造しています。堅調に推移していますが、缶の業界全体が好調なわけではなく、市場は毎年縮小しており、その中でわが社がシェアを伸ばしているということです。資材が値上がりしており、価格転嫁の交渉をしているところです。

 缶メーカーは過当競争の状態にあり、毎年のように中堅どころが倒産しています。おおむね今年も、同じような状況が続くと思います。

 わが社の基本スタンスは、缶業界に対して供給責任を果たすということであり、製缶会社のお客様である缶に入れる中身をつくるメーカーへも出向いて技術サービスや新製品開発を怠らないようにしています。

建設からより高度なものに更新する時代

鋤柄 産業廃水処理施設、マンション浄化槽などの水処理施設の維持管理を柱に、処理状況の調査・診断・コンサルティングなどの仕事をしています。おかげさまで前期も増収増益でした。

 当社は、24時間、365日稼働の体制で、施設の維持管理を行っているので発注側は安心できるのだと思います。営業力はさほどあるとは思えませんが、お客様の困りごとにこたえてきた積み重ねが、30期を超える連続黒字につながったのでしょう。

 業界は“建設の時代”から高度なものへ更新していく時代に移り、処理施設を新設する仕事は少なくなりました。メーカーとメンテナンス業者の境がなくなり、業界は再編成されつつあります。そこへきて、3年前からフランスの大手企業が、政令指定都市を中心に大型物件で実績を上げ始めています。

 愛知県は人手不足が続いており、今春の採用予定者45人の中から、昨秋までに20人の内定辞退がありました。

 ただ県内の景気は、昨年から少し陰りを見せてきています。

[2] 経営課題の重点は何か~何のために経営しているのか

司会 次に今年の経営課題に移りたいと思います。

作る側の思い込みでなくユーザーサイドに立って

広浜 経営理念に「缶の業界の全面的な支援」を掲げています。その具体的な中身として、「いいものを」「早く」「安く」「品ぞろえ」「技術サービス」の5点を重視しています。

 たとえば、“いいもの”についての考え方も、以前は「われわれが自信を持って設計しているのだからこんないいものはない」という、自社の勝手な思い込みでしたが、現在は、「お客様の使い方にマッチしなければいいものとは言えない」という考え方で仕事をしています。缶メーカーだけでなく、缶のユーザーである、塗料や醤油のメーカーに行くと、使い方の違いがよくわかるのです。

 これからの課題として第1に、あるべき品質の見直しです。なかなか手がつかなかったのですが、本腰を入れたいと思います。

 第2に、高齢化した技術者からの引き継ぎの問題です。第3に、中国にある100%子会社の工場を軌道に乗せること。

 第4に、今年インドで日本食を販売する会社をスタートさせることです。この会社はうちにとって全く新しい分野ですが、缶の市場は毎年1.5~2.0%減っており、将来の経営戦略を左右する大事な試みと位置づけています。

活躍する女性リーダー

鋤柄 労働集約型の業務ですので、一貫して一定数の技術者をそろえることを経営上の重要な課題としてきました。

 最近は育てるのに大変骨が折れます。全国から採用しますので、出張面接も含め、私が必ず経営理念やビジョンを語るようにしています。1次面接は30歳代後半の社員が担当しますが、「面接を受ける方が楽だった。1日面接するとぐったりする。でも彼らの人生を左右しかねない大事な機会だから」と力を込めて採用活動を行っています。それでも、3年で3割は退職します。

 全社員に占める女子社員の比率は約25%ですが、ここ10年でリーダーシップを取れる社員は圧倒的に女性が多くなりました。ソリューションビジネス、採用・教育など女性が主体となって取り組んでいます。3人の子どもがいる女性もチームリーダーです。今春の内定者の割合も、男女の比率が6対4になりました。女性の力を引き出すことは、中小企業の重要な経営課題です。

環境問題でお客様の困りごとにこたえる

鋤柄 環境問題でいちばん力を入れているソリューション部門が、柱に育ってきました。お客様の環境問題についての困りごとの解決をはかる仕事です。たとえば、有機性廃水に伴う汚泥の処理などです。発生量を減らすことはもちろん、セメントの増量材として実用化し、燃料にする研究も進んでいます。

 ISO14000取得のサポートなどを行う環境ソフトビジネスも、現在研究中です。環境教育をパッケージにすることも考えています。

隠し事をしないオープンな社風で不祥事防止

司会 昨年は、食品関係の企業などで国民の信頼を損なうような“偽装”事件が多発しましたが、こうした問題についてどう考えますか。

広浜 企業の社会的責任の問題については、社内でよく話をします。結局、「何のために経営しているのか」ということに、いつも立ち返ることが大切ですね。

 当社の場合でいえば、安定供給して供給責任を果たすことが原点です。長いおつきあいのあるお客様に対して、絶対におかしなことはできません。万が一の対策を取りながらではありますが、つぶれそうなお客様にも供給はするようにしています。品質へのクレームがあった時は、すぐにリコールをかけます。

 社内で隠し事をしない、言いにくいことをつくらない、という社風にしておくように心がけています。幸い労働組合があるので、労使協議会を通して、意見は伝わってきます。

前例踏襲主義、利益目標のみ追求は危険

鋤柄 やはりオープンで、クリーンな社風にすることですね。通常の業務のルートで言いにくいことは、当社の場合も、労働組合のルートで上がってきます。超ワンマン体制というのは危険です。業績中心志向で利益目標だけに向かってまっしぐら、というような経営も社会性が欠落しがちになります。世の中のために自社の製品、サービスを磨き、喜んでもらい、その結果として利益が出るという考え方の方が真っ当です。

 前例踏襲主義、以前からやっていたからというだけでそのままやるという社風もダメです。世の中は変化しているのですから、それに応じて、まちがいはまちがいとして認めることが必要です。

 企業が不祥事を起こすというのは、根本のところで、時代の変化を読み違えているということでもあると思います。

[3] 企業を変え、地域を変える同友会運動を強めよう

司会 同友会運動の課題に話を進めたいと思います。広浜さんは今年度、中同協の幹事長に就任されて、これまでとは違う立場から、全国の同友会運動を見てこられたと思いますが。

自社を検証しながら学びたい「労使見解」

広浜 全国的に、この10年あまりの活動の充実ぶりはすごいですね。特に同友会の真骨頂とも言える学ぶ活動は、密度も濃くなっていると思います。それが、地域からの信頼を呼ぶ大きな要因になっています。

 一方で課題もあります。支部、地区によっては、まだまだ学ぶ活動が弱いところも見受けられます。支部長交流会の討論で、「支部の中に同友会で学んで企業を発展させてきた事例がどれくらいあるか」が話題になった時、ある支部長さんは、「見当たりません」と発言していました。

 また、学んではいても、同友会運動が積み上げてきた企業づくりの流れからそれているケースもあります。「中小企業における労使関係の見解」(=「労使見解」)などを生かしていない学びです。

 「労使見解」については、ていねいに繰り返し学ぶ必要があります。「労使見解」は、大変短い文章ですが、そこに書かれていることが、自分の姿勢や社員との関係に照らしてどうなのかを検証しなければ、学んだことにはならないと思います。

経営指針、新卒採用で経営革新を

鋤柄 確かに、各同友会の学ぶ活動は水準が上がってきました。それぞれが開催している経営研究集会(フォーラム)も、全国研究集会並みの内容のものもあります。

 広浜さんも指摘されたように、「労使見解」を企業づくりに生かすことは、ますます大事になってきています。労使の信頼関係は、いつの時代も企業発展の保証であり、原動力です。特に経営指針づくりの中で、その考え方を生かしていただきたいですね。

 それと、経営指針を作成したら、ぜひ共同求人活動に参加して新卒の採用に挑戦していただきたい。必ず経営者自らが学生と面談してください。

 実は、そこで経営者が学生から面接を受けるのです。「この会社からは理念が感じられない。こういう会社に入ったら自分の将来は大変だ」。学生はしっかり見ています。新卒採用への挑戦は、企業と経営者を鍛えてくれます。

価値ある“4万名会員達成”

司会 現在中同協では、中小企業憲章制定運動推進本部、2010年5万名推進本部、情報化推進本部の3本部を設け、各分野の活動の促進に努めてきました。今年度は3本部長の会議も開き、相互の連携をはかっています。

 広浜さん、5万名推進本部長として、この間の会員増強の特徴と新年の強化点などをお願いします。

広浜 おかげさまで、会員数は4万名を突破することができました。1994年に4万名を割り込んでから、13年かかりました。もっとも落ち込んだ時が、2003年の3万6000名、そこから5年連続純増で4万名に到達しました。

 90年前後、毎年3000名を超える純増が続き、一気に4万名(3万名から4万名はわずか3年)を超えたころとは、全く主体的条件と客観的条件がちがっています。それだけに、とても価値のある4万名達成だと思います。

 主体的条件の変化というのは、90年代に活動改善に努め、同友会の活動が大きくレベルアップしたことです。例会、経営指針、地域における諸機関との連携など、豊かな活動になってきました。

 客観的条件は、経営環境の変化に伴い、経営者の意識、ニーズが変わったことです。入会の勧めにうかがうと、手ごたえがちがいます。経営について問いかけた時の、「この会は自社の経営課題にまじめにこたえてくれそうだ」という期待をこめた反応。「地域を一緒に変えていきましょう」という呼びかけに対する反応の良さ。それだけに、私たち1社1社が地域内のモデル企業となるよう努力することの重要性を、身にしみて感じています。

 会員増強に果たす事務局の役割は大きいのですが、ともすると実務に追われ、会員訪問や増強訪問で外を回れないということになりがちです。事務局が外回りの仕事をできるよう、役員の皆さんのご協力をお願いします。

条件づくりの中で主体的に増強

広浜 私自身のことでいえば、千葉県に中小企業振興基本条例ができたおかげで、自分たちの企業が変わることで地域を変えられるという確信が生まれました。

 行政側も、はじめはさほど条例づくりに積極的ではありませんでした。しかし同友会の会員企業の経営努力に触れることで、条例をつくれば、それにこたえる人たちがいるという認識が広がったのです。こうした流れの中で、私は会員増強に主体的に取り組むようになりました。

中小企業憲章の運動は企業づくりと表裏一体

鋤柄 「会員増強は日常的に取り組むもの」という意識が、トップ役員の方々の中に定着してきましたね。それは、「日本の社会を、地域を変えるんだ」という思いの広がりと言ってもいいと思うのです。

 中小企業憲章制定の運動は同友会運動の集大成であり、同友会「3つの目的」の総合的実践そのものでもあります。そういう意味では、同友会会員企業がどれだけ地域経済の再生に貢献しているかが試される運動です。中小企業憲章を制定することは、中小企業が日本経済を支えているという認識を社会全体に広げるということです。

 憲章制定が最終目的ではありません。憲章の制定以前も制定後も、憲章を生かしていく私たちの企業の能力、体力をつけることが必要です。各企業がそれぞれの地域で総合的な力をつけ、地域から頼られる企業となる、それが憲章を生かし、地域を元気にしていく根幹の問題です。

 中小企業振興基本条例が各同友会の活躍もあり、次々とできてきています。これもつくったら終わりでなく、経営指針と同様に、毎年見直していく必要があります。憲章・条例問題を社内で社員と共に学ぶことも運動のすそ野を広げる上で大切なことです。地域をつくりかえるという視点で社員と共に考えると、新しい仕事づくりにもつながります。

役員研修の充実強化を

鋤柄 毎年2回、中同協役員研修会を行っていますが、明らかに各同友会における活動レベルのちがいが参加者の意識のちがいとなって表れてきています。それぞれの同友会で役員研修の一層の充実化をはかる必要性を感じています。役員研修会には、私たちもいつでもかけつけますので、ぜひ一緒に学びましょう。

来年は中同協40周年、革新をはかる年に

司会 同友会の組織活動支援のツールとして、「e.doyu」の利用は2万近くの会員に広がってきました。会員の皆さんと同友会のパイプをより太くするために、中同協では情報化推進本部が中心となって情報化の整備をすすめています。新年度に向け、企業変革支援プログラムの運用なども準備されています。

 同友会の社会的役割、存在価値は、お2人の指摘にもありましたように、かつてなく高まっています。それに適切にこたえるためには、役員体制の充実と事務局の強化が不可欠です。一昨年来「事務局の任務と役割」を検討するプロジェクト(Jプロジェクト)が作成をすすめてきたパンフも、年度末には完成しますので、役員の皆さんとともにお読みいただきたいと思います。

 昨年は同友会創立50周年の年にあたり、同友会運動の歴史や理念を学んできました。来年、中同協は設立40周年を迎えます。今年は半世紀の運動の成果の上に立って、さまざまな分野で革新をはかっていく年としたいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2008年 1月 5日号から