【中小企業の事業継承を考える(上)】規模が小さいほど事業承継の準備は早めに

同族会社でも親族外承継が増加

 同族会社が多い中小企業では、事業承継問題が経営上の大きな課題となっています。昨年実施した同友会の調査(2007年7~9月期同友会景況調査(DOR、オプション項目、12月5日付既報))結果なども受け、「事業承継」について3回連載で考えます。

中小企業の多くが同族会社

 日本における中小企業のほとんどが同族会社です。このことがさまざまな面で事業承継についての問題を大きくしているといえます。国税庁の「平成17年版 税務統計から見た法人企業の実態」(2006年12月発表、表1)によれば、資本金1億円未満の企業のうち95.5%が同族会社であるとされています。中小企業一般で見れば、そのほとんどが同族会社であることが分かります。

<表1>

注1
同族会社:
株主等の3人以下及びこれらの同族関係者(個人及び法人)が有する株式の総数又は出資金額の合計額が、その法人の発行済株式の総数又は出資金額の50%以上に相当する法人をいい、法人税法の規定により同族会社の留保所得に対する課税の対象となる。
非同族の同族会社:
上記の同族会社を判定する場合、同族会社でない法人を株主等に選定したため同族会社となる法人(例えば非同族会社の子会社等)を一般に非同族の同族会社といい、留保金額に対する課税の適用対象から除かれている。
非同族会社:
上記以外の法人をいう。

注2
連結法人を除く

 同族会社の場合、後継者となるべき候補者が多数いるということはまれです。業績がよほど良ければ別ですが、親族以外に後継を頼める人間がいない、というのが現実でしょう。

 中小同族会社の場合、とりわけ創業者の場合は社長の個人財産を事業のために提供したり、銀行との関係で個人保証を提供していたりというのは一般的です。親族全体の財産が企業経営に組み込まれていることもあります。そのために、後継者は親族から選ばざるを得ないという構造的問題をも有しています。

 しかし、同族会社はずっと同族会社として続くのかというと、経年で変化している様子が見て取れます。対象企業は違いますが、東京商工リサーチの「後継者教育に関する実態調査」(2003年)によると、同族会社(子息・子女とその他の親族の合計)はこの20年間で93.6%から62.0%まで減少しています。同じ期間、親族以外への事業承継は6.4%から38.0%まで増えています(図1)。同族会社だから、親族に事業承継しなければならないという時代ではないともいえます。

<図1>

 
規模による差が大きい

 相続にあたって、問題が顕在化することも少なくありません。経営としては、迅速な決断を実行するためにも後継者及び友好的株主が議決権の相当数を持つことが望ましいわけですが、法定相続分、遺留分など他の相続人が持つ権利行使によって分散せざるを得ないケースもあります。

 中同協が昨年行ったDORオプション調査(2007年7~9月期)では、経営者の経験年数と年齢を聞いています。結果は平均経験年数は20.8年、平均年齢で57.3歳となっています。これを規模別に見ると、経験年数では規模による差は表れませんが、経営者の平均年齢は規模が大きくなるほど年齢も高くなるといえそうです(表2)。

<表2>

 一方、2007年版「中小企業白書」では、規模が小さいほど事業承継が進んでいない実態を取り上げています(図2)。さらに規模が小さいほど後継者を決めている企業割合が少ないことを指摘しています。規模の小ささが、後継予定者の選択の幅を狭めているといえます。

<図2>

 今回のDOR調査で親族への承継が75%というのは、回答企業の業績も良く、後継親族が事業に魅力を感じている結果ともいえます。

 それでも、「事業承継の際に想定される問題」で「後継者の力量」(80.2%)、「借入金の個人保証」(26.9%)、「個人資産の取り扱い」(13.5%)が挙げられているのは、このあたりが事業承継にとって、ネックになっていると考えられます。

 事業承継は、規模によってその決定状況が異なるといえそうです。であるならば、小規模企業ほど、事業承継の準備を早めにする必要があるといえます。

中同協調査室長 鈴木幸明

「中小企業家しんぶん」 2008年 1月 5日号から