【中小企業の事業継承を考える(中)】早い時期から事業承継計画を

進まない事業承継

 『中小企業白書』2006年版では、「『世代交代の2つの波』と中小企業の事業承継・技能承継」と題して、章をもうけています。

 そこでの問題意識は、「中小企業の年間平均創業数は16万7681社である一方、年間平均廃業数は28万9731社に上る。すなわち年間12万2050社(年率約2・8%)ずつ企業数は減少していることになる」という危機意識から展開しています。

 こうした問題意識の下、中小企業基盤整備機構では「事業承継に関する研究」報告(2007年3月)をまとめています。

 そこでは、戦後創業期の経営者が世代交代期を迎え、一方で子どもの数の減少による後継者難と経営者の高齢化で、事業承継がなかなか進んでいない状況を明らかにしています。

 「かつては52歳くらいで事業承継を考えたものが、最近では57~58歳に高まっている。60歳近くになって事業承継の準備に入り、67歳でバトンタッチするというケースが最も多い」といった実態をも、ここで明らかにしています。

いつか必ず訪れる問題

 いつ訪れるか分からないにしても、事業承継計画の実行には時間がかかります。早期の引退も視野に入れつつ、できる限り早い時期から着実に準備を進めることが必要です。十分な準備をし、着実に進めることができるかどうかで、事業承継の成否が大きく左右されます。

 2006年施行された「会社法」を上手に使い、事業の後継者には普通株式を、事業に関係のない相続人には議決権制限株式を相続させるなどにより、議決権の分散を防ぐのも1つの方法です。また公正証書遺言を活用し、経営者の死後、事業後継者に事業に必要な財産を残すことも可能です。

 いずれにしても、事業承継の計画を立て、着実に実行することが重要です。

事業承継フローチャート

 2005年、中小企業庁の肝いりで中小企業基盤整備機構内に設けられた「事業承継協議会」では、2006年に『事業承継ガイドライン』をまとめました。

 これは、上記のような問題意識の下で、「逞(たくま)しい中小企業の厚みを増し、その健全な発展のために環境を整備し、未来に承継してゆくことは、日本経済が継続的に発展を続けていくために必要不可欠なことです」という認識を示し、事業承継をいかにスムーズに進めるかを分かりやすく提示しています。その概念を示しているものが、「事業承継フローチャート」(図)です。

事業承継フローチャート(「事業継承ガイドライン」より)

 全文は70ページほどのもので、事業承継協議会のホームページより読むことができます。

『事業承継ガイドライン』掲載ホームページ
http://www.jcbshp.com/achieve/guideline_01.pdf

中同協調査室長 鈴木幸明

事業承継を計画する会員企業事例

 スムーズに後継者への引き継ぎを準備している会員企業の事例を紹介します。

▼信越地域にある鉄工所では、6期厳しい経営状態が続いた末、一念発起、徹底的に無駄を省き黒字に転化し、その後黒字経営を続けています。ここでは2人の息子に小さなころより、兄は社長、次男は専務と教え込み、長男は次期社長として、次男には3年間同業種他社での修行の後、入社させています。対外関係も長男は青年会議所、次男は同友会青年部で学びながら、経営者としての資質を磨いています。

▼静岡のパッケージ会社では、息子への承継は2代先として、パートの社員を正社員とし、後継者に指名。地域での仕事をなくさないためには、ワンポイントリリーフもやむを得ないとしています。金銭的な負担をできる限りかけず、理念を継げる人、人柄で選んだといいます。

▼首都圏にある紙器製造業では、本社工場が都心に近く、地価を反映して業績に反し、株価が高いという悩みがありました。父親である元社長が株の多くを所有していることも、承継を難しくしていた原因の1つでした。この業界が指定不況業種でもあり、赤字になることで株価を下げ、自社所有株として買い取ることで、この問題を乗り越えることができました。

「中小企業家しんぶん」 2008年 2月 5日号から