【中小企業の事業継承を考える(下)】早い時期から事業承継計画を

 DORのオプション調査によれば45.2%の経営者はすでに後継者が決まっていると答え、そのうち75%は同族間承継であることが分かりました。

 このシリーズでは、同族間承継が最近では減少する傾向にあること、しかし規模間によって差があることを見てきました。

 さらに前号では、小規模企業でも事業承継がスムーズに進むためには、早くからの準備が必要であること、またスムーズに進めるための「事業承継フローチャート」などが用意されていることを示しました。

 ここまでは事業承継を人に焦点を当てて見てきましたが、今回は事業承継全体を考える上でのスキームと、同友会がこの間、政策要望として主張してきた事業承継税制に焦点を当ててみます。

事業承継のスキーム

 事業承継を総体として考えてみると、(1)経営者の交替、(2)経営の承継、(3)資源の承継に分類することができます(『企業承継の考え方と実務』企業再建・承継コンサルタント協同組合)。この事業承継のスキームについて、全体として早めに対策を立てることが必要であることを述べてきました。

 (1)の経営者の交替は人の問題であり、後継者の選択、教育、人事制度の構築などを視野に入れての対策が必要となります。

 (2)の経営の承継については、事業の将来性判断、企業評価、危機管理、経営理念の構築などが課題となります。これらは経営指針の確立によって、その内容を深化させることこそ解決の糸口が開かれてこようというものです。

 (3)の資産の継承は、自社株対策、相続対策、納税資金対策などを考えていく必要があります。ここでは自社での対策と同時に、社会に貢献する中小企業として当然の政策・制度を考えていく姿勢も大事です。

「事業承継」への政策要望

 日本においての中小企業の事業承継税制では、相続税の過大な負担によって事業承継は大変深刻な問題になっています。特に都市部においては、地価高騰により事業用の土地、建物の評価が上がり、このことが自社株の評価を事業評価以上に高くしています。安心して事業承継がしにくくなっていることが挙げられていました。

 1997年アメリカでは、中小企業の事業承継を可能にする大胆な税制改革を行っています。こうした中小企業政策がその後の成長を支える1要因になっています。

 中同協では1989年の『1989年度国の政策に対する中小企業家の要望』から事業承継にかかわる相続税、贈与税の納税猶予制度などの事業承継税制を提案しています。

 その後、事業承継についての政策は年々その内容を充実させ、「2008年度国の政策に対する中小企業家の要望・提言」では、「相続税の基礎控除を5000万円から1億円程度に引き上げ、事業用資産の評価は『事業承継価額』で評価する、10年間事業を承継した場合には通常評価額との差額の免除」などを内容とする事業承継制度の提案を行っています。

 2007年12月に発表された政府予算案大綱によれば、事業承継円滑化法(仮称)の施行の日(2008年10月予定)以降、一定の条件のもと、5年間の納税猶予の後、80%の納税が免除されるという案が示されています。

 これまで同友会で提案してきた事業承継税制の一部が、2008年中に実現されそうです。

中同協調査室長 鈴木幸明

「中小企業家しんぶん」 2008年 3月 5日号から