中小農家400戸が食文化育む「産直」~農事組合法人 多古町旬の味産直センター 代表 高橋清氏(千葉)

高橋氏

農事組合法人 多古町旬の味産直センター
代表 高橋清氏(千葉)

 今回は、首都圏近郊で米と野菜作りを協同で行い、都会の消費者と産直を通して交流を深めている千葉県の「多古町旬の味産直センター」を取材しました。

 4月中旬、早場米の「多古(たこ)米」の産地、千葉県多古町では、すでに代掻(しろか)き作業が始まっていました。この地に中小農家のこれからを考えて農事組合法人「多古町旬の味産直センター」(高橋清代表、千葉同友会会員)が設立されて21年。約400戸の農家が米と野菜あわせて約450町歩を耕作し、首都圏の生協や女性団体、学校給食向けに出荷しています。

「しんのみ畑」から産直

畑

 産直センター設立のきっかけは、きのこ栽培を手がける高橋さんが、生協出荷用に袋詰め作業を農家の主婦たちに手伝ってもらっているとき、その1人が「私らのしんのみ畑の野菜も出荷できないかな」とつぶやいたことでした。

 「しんのみ畑」とは、農家が自家用に野菜を作る畑のことで、旬の野菜を少しずつ栽培し、毎日の「汁の実」になります。この新鮮で安心安全な野菜を泥付きのまま都会の消費者の台所に届けたい。そうして始まったのが、旬の野菜を少しずつ組み合わせた「セット野菜」の産直でした。

 農協を通した市場出荷では、量がそろわなかったり、規格から漏れてしまう多様な野菜たちも、消費者の元に直接届けられます。消費者の元に届く野菜は年間80品目にも及びます。減反政策の中で悩む、都市近郊の中小農家が選んだ道でした。

米は「市民農園方式」

 米の産直では「私の田んぼ」という「市民農園方式」を編み出しました。1反歩の8分の1(約125平方メートル)を1区画として市民に利用してもらい、農家が年間1俵(60キログラム)の米を保証。利用者は田植えや収穫時に「私の田んぼ」を訪れ、生産農家と一緒に汗を流します。今では6000人前後が利用し、田植えには毎年600人もの家族連れが参加。田植えの後は、農家の手料理に舌鼓をうちながら、楽しい交流の輪が広がります。

都市と農村が交流する「しんのみくうかん」

多古町しんのみまつり

 産直センターでは、生産農家と消費者のさまざまな交流プログラムに取り組んでいます。

 「ひまわりエコプロジェクト」は、子どもたちがひまわりを栽培し、種から油を取り、その油で料理し、廃食油を肥料にして、またひまわりを育てる資源循環を体験。大豆が日本の食文化には欠かせないのに自給率はわずか4%という現状を知ってもらおうと、親子で味噌造りに挑戦したり、生協の食育プログラムにも協力しています。

 交流の場として開設した「しんのみくうかん」には、レストランのほか、ピザ焼き釜や陶芸用の窯も整備し、子どもだけでなく、団塊世代の交流の場にもなっています。

 何よりにぎわうのが、毎年11月の「BRAぶらしんのみまつり」です。村に点在する生産農家が、それぞれ趣向を凝らした郷土料理を庭先でふるまい、参加者は村の中をぶらぶら歩いて農家をまわり、その生活空間に浸りながら交流。村に伝承の結婚や長寿の祝いなどの行事食も再現されます。スローフード運動発祥の地、イタリア・ブラ市を訪れたことをきっかけに2001年から始まったもので、毎年、約1000人もの参加者で大にぎわいの1日となります。

五感で感じる「産直

 「おいしさとは、それを生産している場に来て、生産者と交流し、思いを受け止め、味わって感ずるもの。五感で感じることで食文化が育まれていく。それがこれからの産直の姿ではないでしょうか」と高橋清代表。

 「農村では当たり前の風景が、都市生活者にはやすらぎの場となる。少し古びているけれど、広々した家の造りを、都会の人はすばらしいと言って感動してくれる。そのことが農家の人にも元気を与えるのです」「学校給食用に野菜を届けている小学校からは、モンシロチョウの卵の付いたキャベツを送ってほしいとの注文。後日、卵が孵化し、幼虫となり、チョウとなって飛び立つまでの観察記録が送られてきたこともあります」「こういった交流があれば、スーパーの産直には負けない」と話します。

協同が支える農業生産

 中国製毒ギョーザ事件をきっかけに、国産農産物が脚光を浴びています。多古町の「道の駅」も、年間7億円を売り上げる盛況ぶり。

 「それでも農政事務所は、減反に協力を、と言ってきます。世界では食糧不足が言われ、日本の食糧自給率も落ちているのに」と高橋さん。安価な海外農産物との競争が続く中で、農業で採算が合い、後継者を育てていくにはどうしたらよいかが課題といいます。

 産直センターでは、センターオリジナルの有機質肥料を作り、それを生産計画に基づいて各農家に配布。収穫までは各農家が行い、収穫後の泥落としや袋詰めなどの調整・加工作業は、産直センターでまとめて行う取り組みを拡大しています。生産以外の作業を協同することで、家族労働が中心の中小農家でも、生産に力を集中でき、規模を広げる余力が生まれます。最近では、耕作放棄地を荒れ地にしないために、作り手のいなくなった農地を借り受け、農地の拡大もはかられています。

 後継者の育成では、息子たちが跡を継ぐと言って戻ってきたり、農業をやりたいとやってくる若者を実習生として受け入れるなど、明るい兆しも見えているといいます。

 「若者の新しい発想をどんどん取り入れながら、高齢者の知恵も生かし、地域資源を活用した新しい形の共同体を作っていくこと。販路の拡大や労働生産性をどう上げていくかが課題。なにより経営手腕が問われます」と話す高橋さんです。

農事組合法人概要

設立 1987年
生産者数 約400人
総耕作面積 約450ha
職員数 正規14名、パート10名
業務内容 野菜と米の販売
所在地 千葉県香取郡多古町次浦
TEL 0479-75-0358
http://www.tako-syun.or.jp/

「中小企業家しんぶん」 2008年 5月 5日号より