経営理念を社員と実現するために~(株)日本工業社 社長 米田 和秀氏(東京)

(株)日本工業社 社長 米田 和秀氏(東京)

行動指針で共に育つ社員を育成

(株)日本工業社(米田和秀社長、東京同友会会員)は、大手企業内でのオンサイトアウトソーシングを中心に、複合機関連サービス事業を展開しています。

 1949年創業で米田氏は4代目。同友会の共同求人活動や新入社員研修に参加する中で「共に育つ」人間教育の大切さに気付き、多彩な教育メニューを作り上げ、「人を生かす」経営づくりに徹しています。

人材が定着しないことの悩み

 新卒は過去に採用したことがありますが、現場に教育力がなく、定着に問題がありました。

 その後、即戦力を目的とした中途採用にし、必要に応じて外部の研修を利用していました。しかし、外部の研修に出ても、現場ですぐに使えるものとは限らず、うまく効果が上がらないということを繰り返していました。

 また中途採用の場合、同社の経営理念が浸透しにくいということもありました。経営理念を理解し、それに基づいて行動できる人材をどうしたら育成できるか悩み、再び新卒採用に転換。「新卒採用を毎年行うことで、後輩に教え、自分も成長していく企業の文化ができる。時間はかかるし面倒かもしれないが、それを面倒だと避ける職場に問題がある」と米田氏は考えました。

人間教育を支える、行動指針「HERO’S」

 昨年、米田氏は東京同友会主催の2泊3日の新入社員研修に運営委員として参加しました。研修のグループ討論で、助言者として他社の新入社員の話や悩みを聞く中で、「若者に共通していたのは、知識偏重主義の影響なのか、他人を見た目で判断し、人間関係が広がらないし恐れている」と感じ、「仕事の知識や技術だけでなく人間教育が必要」と気付きます。

 そして、社員の行動指針「HERO’S」(H:Harmony協調性ある行動、E:Energy満ち溢(あふ)れるエネルギー、R:Reality現実を見極める眼、O:Originality個性豊かな人間性、S:Step by step一歩一歩、着実な成長を…)を打ち出しました。

 その後、これをもとに、「JII HERO’S研修」を立ち上げます。これは社長自らが「人生とは何か」、「仕事とは何か」を伝えていこうというもので、毎週金曜日にテキストに沿って、新人によるグループ討議を中心に行っています。

 ここでは、テーマにもとづき自分たちの体験を含め議論し、それをどう生かしていくかを学びます。人生や生き方をどうとらえるかを考える場となり、それが結果的に仕事に対する姿勢の変化につながっています。「今は全般的に人間関係がドライ。仕事の知識やスキルを上げる教育だけでなく、人間教育も会社を伸ばすためには必要」と米田氏。

多彩な教育メニュー

 同社の教育メニューは多彩です。新卒社員向け、中途入社向け、1年以上の社歴を持つ一般社員向け、管理職向けなど、「対象者ごと」と「共通メニュー」をそろえています。

 「共通メニュー」はビジネスマナー、パソコン操作の基本、デジタル印刷など5つのカテゴリーに分けられています。

 昨年、教育制度を見直し、従来のOJT、OFF―JTのほか、通信教育、eラーニングなど、教育全般にツールやメニューを増やしました。新入社員は同友会の新入社員研修を基本研修としてスタートし、1年間の計画が組まれています。

 ただ、昨年はこうしたメニューが50にも及び、社員にとって仕事をこなす中で負担となる面もあり、後半からは、顧客の工場見学やゲーム形式など、リラックスして学べるメニューも加えました。

芽生えた共に育つ社風

 「共通メニュー」のビジネスマナーでは、東京同友会のビジネスマナーインストラクター養成講座を卒業した社員が講師を務め、現在4名に増えました。

 その1人、岡田優子さんは、「新入社員が入ることで、社内が非常に活性化しています。自分の仕事を知らない人に分かりやすく知らせることは難しいですが、そのことで、自分自身の仕事が改めてよく分かります。新入社員と共に育ち合っていくことの大切さを実感しています」と話します。

新たな経営理念とともに

 今年4月には、新しい経営理念「『TIME』確かな技術とサービスでお客様に価値ある時間を提供し続けます」を発表しました。社員に発表する前に、先行して合同企業説明会のブースで提示したところ、ある学生から「『価値ある時間』という言葉がかっこいい」という反応がかえってきました。今年、その学生が同社に入社しました。

 経営理念を共に実現していく、「共に育つ」社員の育成が現在進行中です。

【社員から】社員が考え、楽しめる教育のために

総務グループ グループ長 岡田 優子さん

 当社の社員は、素直でやさしくて、人間味あふれる人でいっぱいです。和気藹々(あいあい)として、いがみ合わずに仕事ができるという環境は素晴らしいと思います。

 現在は総務グループで人事・庶務などを担当し、社員の採用・教育にも、社長と一緒に少しずつかかわらせていただいています。

 社員の教育については、なるべく興味を持ってもらえるように努めています。やらされ感や、報奨制度ではなく、なぜそれを学ぶ必要があるのかを一人ひとりが考えて、楽しめる仕掛けを提供できればと心がけています。

 そのための一環として、昨年度から、年度末に全社員を対象にヒアリングを行い、今期を振り返ってもらいつつ、年度初めに定めてもらった各自の個人目標に当てはまる教育が提供できたのかを丁寧に聞いています。

 当社の場合、皆が同じ場所で仕事をしているわけではないので、やっている業務や職場によって全く環境が違います。たとえば、業務によって通信教育で技術が習得可能な人とそうでない人とが出てきます。そのため、一人ひとりの業務内容や学びたいことに合わせて、教育のプログラムを組むよう心がけています。

会社概要

設立 1949年
資本金 1000万円
年商 8億8000万円(2007年度実績)
社員数 45名
業種 複合機関連サービス
所在地 東京都千代田区内神田
TEL 03-5207-5510
http://www.jiinet.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2008年 5月 15日号より