自発性引き出すフィンランドの企業家教育

中小企業憲章の具現化の「現場体験」

 5月の中同協ヨーロッパ視察では、ユヴァスキラ大学のチーム・アカデミーの学生たちとの交流が参加者に鮮烈な印象を残しました(本紙8月5日付の視察記(3)参照)。

 学生たちに会った際に開口一番、「ネクタイをはずしてフランクになりましょう」と言われ、「何が始まるのか」と思いつつ、言われるままネクタイをはずし、2つのグループに分かれて車座になりました。

 学生たちは、向き合った日本の中小企業経営者たちとの年齢差にも物おじせず、次々と質問を浴びせかけてきます。はじめは面食らった同友会視察団メンバーも、日ごろ鍛えられたグループ討論の要領でこたえ、学生たちの「本音」を引き出そうとし、自由闊達(かったつ)な討論となりました。

 このチーム・アカデミーは、ユヴァスキラ大学の起業教育プログラムであり、毎年40人ほどが参加し、チームごとに事業協同組合をつくって実際にビジネスもしています。聞くと、失敗もあるようですが、イベント企画などで相当な利益を上げている様子。稼いだお金で「皆で世界旅行する」と快活な返事が返ってきました。

 この起業教育プログラムの特徴は、チーム学習であり、実際にビジネスを経験させる「実践による学び」(Learning by Doing)のプログラムであることです。

 本紙「視察記(3)」で紹介したように、フィンランドの教育スタイルは、先生が教室の隅に立っていて、各生徒は自分自身で学習を進めていき、先生はそれにアドバイスするというやり方に変わりました。チーム・アカデミーでも、先生はコーチという役割です。

 視察メンバーの中には、このやり方で本当に学問の習得ができるのか疑問に感じる方がいたのも事実です。しかし、帰国後に調べたところ、チーム・アカデミーの方法論は、これからの知識社会で自発性を引き出す優れた教育方法であると紹介されていることを知りました(寺岡寛『起業教育論』)。

 「現在、わたしたちの知識は30カ月後には古くなっているかもしれない。固定的な学習方法・カリキュラムは学生が卒業するころには、時代遅れになっているだろう。…自発性とは勝手に出来上がってくる能力(スキル)ではない。それには正しい環境と教員側の正しい指導が必要なのである。教師は学生たちを自分たちの知識を何でも書き込めるような白紙のようにみなす役割を止め、学生たちと同じ学びの場のコーチとなり、彼らが成長して一生を通じて自発的に学べる人となれるよう支えるべきだ」(ヨハネス・パルタネン『チーム・アカデミー―実践によって学ぶコミュニティーの実話』)。

 EUのヨーロッパ小企業憲章の10項目の行動指針の第1に「企業家精神のための教育と訓練」が掲げられ、「われわれは、若者たちの企業家への努力を勇気づけ、奨励し、小企業の経営者として訓練するための計画を開発していくだろう」とありますが、チーム・アカデミーの実践はまさに「小企業憲章」の具現化です。

 日本の学生もフィンランドの学生と同じ可能性を持っているはず。中小企業憲章制定の課題の具現化として、フィンランドのような教育環境や社会環境を日本でも創(つく)っていくことを具体的にイメージできました。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2008年 8月 15日号より