食料自給率向上は消費者と生産者の信頼関係から

~農事組合法人「伊賀の里モクモク手づくりファーム」専務理事 吉田修氏(三重)

新農業ビジネスの旗手として挑戦しつづけて20年

 新しい農業づくりとして全国から注目を浴びる農事組合法人「伊賀の里モクモク手づくりファーム」(木村修代表理事)は今年創業20周年を迎えました。同ファームは、「ハム工房モクモク」として創業、以後「モクモク手づくりファーム」をオープン、地ビール・パン・パスタ工房、手づくり体験教室、滞在型食農学習施設の開設、県内外への農場レストランの展開も行い多くのファンを得ています。本紙では、専務理事の吉田修氏(三重同友会会員)と(有)農業法人モクモクマーケティング事業部通販チームマネージャー中奥陽子さんからお話をうかがいました。(中同協・国吉昌晴)

―創業20年おめでとうございます。「日本の食と農を考える」というテーマですが、モクモク20年の歩みから見えてきたことをお聞かせください。

吉田 モクモクでは、12年前から毎年フランスの研修生を4人預かっています。学生たちは共通して「生まれ育ったところの農産物、ワインが一番おいしい」というのです。フランスには、子どもたちに食物について教育する「教育ファーム」が全国に1600カ所もあり、そのうち公営が1000カ所、そこでは子どもたちが食への関心を高め、正しい認識を持つことが教育の一環として実施されているのです。日本にはそういう施設は1カ所もありません。

 私たちは、日本の食料自給率を引き上げるのは「まず、これではないか!」と思いました。地元で採れた食品の「本当のおいしさ」を理解すれば、たとえ輸入食品より割高でも食べてくれる。

 5年前からスタッフをフランス、イギリスに派遣して研究させ、3年前から家族連れで農業体験をしてもらう宿泊施設「OKAERIビレッジ」(40棟)をオープンしました。乳搾り体験では「牛乳って温かいんだ」「出産していないと乳は出ない」「コーヒー牛乳って何なのか?」こんなことが実体験で分かります。

 農業がいかに生活から遠くなってしまったか。環境教育施設は整いつつありますが、食物教育施設はこれからで、農水省の関係者にも提案しているところです。

―「食育」ということがようやく言われるようになりました。モクモクはその先がけですね。それにしても食品流通市場では、国産品は「高い」という問題があります。

吉田 今また国際的な燃料費の急騰で、生産者は悲鳴をあげており、先般も漁民のストライキがありました。結果として消費者は高く買わざるをえないのですが、その時一番大切なのは、生産者の情報を正確に届けることです。消費者が納得し安心できる情報であれば、国内や地元で採れたものを優先的に買っていただけます。この信頼関係を築く努力を私たちは実践しており、これが自給率を高める道なのです。

―食品の大量廃棄の問題や、畜産業界は飼料の大半を輸入に依存せざるをえない現実もあります。これらをどうお考えですか。

吉田 日本の畜産飼料は98%が外国産という構造です。しかし、日本でも昔は残飯養豚がありました。ところが残飯ではあぶら(軟脂)の質が悪くなるという問題があるのです。

 今では研究が進み、加工食品の残さを液状化(リキッドフィーリング)することで軟脂の問題は解決しました。すでに、オランダでは養豚業の60%、ドイツも40%でリキッドフィーリングが活用され、資源のムダ使いが抑えられています。

 モクモクでも、地元食品業界の残さ物(パンの耳、菓子類の売れ残りや食品生産工程で生じるハネ物等)の活用を研究しています。日本の食品廃棄物は事業用、家庭用あわせて世界の飢餓状態にある4000万人を救うとも言われており、早急な実行が望まれています。

―モクモクの挑戦は、日本の農業ビジネスの新たな地平を切りひらいてきたともいえますが、創業以来の理念、発想の原点をお聞かせください。

吉田 私たちは、生産者(つくり手)こそ主人公でなければならないと思い続けてきました。つまり、自立経営です。その内容は、第1に価格決定権(自分たちで値段を決められる)を持つこと、第2に流通選択権(自分たちで販売先を選べる)を持つこと、第3に商品開発権を持つことです。

 現在は200アイテムを持ち、売上の9割は消費者直売、1割が委託販売です。資本の構成も生産農家(組合員)と従業員のみで構成しています。

―自立型経営は同友会企業のめざす方向でもあります。今後の発展に期待します。

「モクモクの生きがい、働きがい」共感しあえる発信を

(有)農業法人モクモク マーケティング事業部通販チームマネージャー 中奥陽子さん

 モクモクの社員は、明るくサービス精神に富むとの評判も高い。社歴12年になる中奥さんに「モクモクでの生きがい、働きがい」をうかがいました。

 実家は奈良の茶農家で、あるとき父とモクモクを視察し、スタッフが楽しく仕事をしているのを見て入社を決めました。店舗、商品開発に携わり、今は通販の責任者です。ここは、年齢、性別に関係なくチャレンジさせてもらえるし、責任ある仕事も任せてくれます。

 通販チームは企画4名、事務職1名、電話・ネットの受注はパート、アルバイト7名で行っています。3万7000名の会員にDM、機関誌を送付し、年間7億円を売り上げています。

 私たちは「モクモクらしさ」を大切に、農業分野で前例のないことに常にチャレンジしつづける精神を大切にしています。

 私は、会員さんの取材を担当していますが、以前大阪におられて、現在は東京にお住まいの方が、「モクモクから荷物が届くと、真っ先に、においを嗅ぎ、伊賀の空気を味わう」と言われるのには泣けてきました。メル友で母のように親しくしている会員さんもいます。物とお金だけの関係ではないのです。自分自身の人生の財産でもあるのです。

 日本の農業は後継者も少なく、海外依存率が高く、食の安全性も問題があり、一方で高カロリーによる健康不安の増大、ぼう大な食品廃棄物など課題は山積しています。農と食の問題は日本人全体が真剣に考えるべきであり、私ももっと勉強しようと思います。

 モクモクの年間来場者は50万人で、4割がリピーター。通販会員も3分の1が県内で、地元との関係づくりが大切です。一方通行ではダメで、共感してもらえる発信能力を高めること、自分も消費者として喜べる商品開発であり、楽しめる仕事にしていきたいと仲間といつも話し合っています。

モクモク手づくりファーム概要

創業 1989年
出資金 3800万円
組合員農家 32軒
他関連会社 (有)農業法人モクモクなど4社
社員数 130名(パート140名 アルバイト300名)
年商 40億円(07年度)
業種 直営農場、農畜産加工場、食農学習施設、通信販売、農場レストランなど
所在地 三重県伊賀市西湯舟3609
TEL 0595-43-0909
http://www.moku-moku.com/

「中小企業家しんぶん」 2008年 9月 5日号より