働きがいのある人間らしい仕事とは

注目される社会起業家の出現

 法政大学大原社会問題研究所とILO(国際労働機関)駐日事務所が共催するシンポジウムに参加しました。テーマは、「ディーセントワーク創出のための技能開発~生産性向上、雇用促進、発展をめざして」。ディーセントワークとは、「働きがいのある人間らしい仕事」の意味です。

 シンポジウムでは、日本でワーキングプア(働く貧困層)の増加が社会問題になっていますが、適切な技能(スキル)がないために、経済成長への参画から排除される労働者が増える傾向にあるのは、世界的に見られる悪循環であるといいます。そして、今年のILO総会が、技能向上のための効果的な教育と訓練を行うことで、より多くの良質な雇用、ディーセントワークを創出する好循環をつくりだす主旨の決議が採択されたことが紹介されました。

 特に日本では、フリーター・ニート問題の世代問題化が生じているという報告もありました。不況期に卒業した団塊ジュニア世代は非正規雇用の比率が高く、家族形成期に入っても結婚・出産が進まず、少子化問題に拍車をかけています。

 問題解決のための政策形成が求められますが、ILO総会にも参加したシンポジストの方たちは、厚生労働省や日本経団連、連合など政労使の代表であり、中小企業の代表が入っていないことに違和感を覚えました。中小企業が関与しないで、問題は本質的に解決しないと思うからです。

 私たちは、「働きがいのある人間らしい仕事」とは何かを改めて掘り下げて考える必要がありそうです。その点で、興味深い記事が目に留まりました。

 「少し前まで、ハーバード大学でMBA(経営学修士)を取るようなエリート学生は、初年度に2000万円を超える年俸を出す証券会社や投資会社に迷わず就職した。大きな会社で金融のスキルを身に付けたら、独立して投資ファンドを立ち上げるのが、『成功』だった。でも、今の学生が最もあこがれるのは、年収200万円の職業」(「日経産業新聞」9月19日付「眼光紙背」)。

 その職業とは「ソーシャル・アントレプレナー」。日本語に訳せば「社会起業家」です。ビジネスの技術を駆使して社会貢献を目指す新しいタイプの起業家です。

 ここでは、経営破綻したリーマン・ブラザーズは世間に「グリーディー(強欲さ)」を批判されましたが、アメリカの若い世代は早い段階から「強欲」を嫌い始めていたと分析します。アメリカ人ビジネスエリートのイメージからすれば、少し「できすぎた話」ですが、資本主義の「本場」の底流で変化が起こっていることは注目されます。

 さまざまな問題が噴出して、社会全体に閉塞感が漂っている今の日本でも、「よい社会」をめざす社会起業家の出現が予見され、期待されます。

 経済社会が大変動し、転換期である今、中小企業家の立場から若者に寄り添い、「何のために働くのか」を共に考え、「よい社会」を共に築くビジネスに着手するチャンスです。また、そのようなビジネスのあり方を考えることは、中小企業憲章の課題にもなるでしょう。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2008年 10月 15日号より