常識にとらわれないノウハウで空間サービス業へ~古いビルには“光るもの”が必ずある
福岡でビル再生企画やリノベーション(刷新による価値向上=修理・改装)を賃貸という形態で取り扱う不動産管理会社「吉原住宅(有)」(福岡同友会会員)。独自のノウハウと実績を積み重ね、業界の中でも一線を画する存在となっています。福岡同友会の『月刊同友』10月号より紹介します。
老朽物件抱えた貸しビル業から
吉原住宅(有)の吉原勝己社長は8年前の2000年39歳の時、父親に呼ばれて後継者として吉原住宅に入社しました。当時は空室の増加と賃料の低下のうえに毎日クレームの電話が入り、建物は築年数でしか評価されないのがこの業界の常識、老朽物件を抱える同社は経営の危機に瀕していました。経営を学ぶため、同友会に入会したのもこのころです。
イノベーション(経営革新)の必要性を感じた吉原氏は、経営計画に基づく試算、費用対効果や耐震強度・コンクリート強度、新たな賃貸市場の可能性などあらゆる面で分析して、古い建物を壊すことなく活(い)かす方法、付加価値を付けて良質の環境を生み出す方法を模索することにしました。
リノベーションの実験に着手
吉原さんはビル管理の仲間に声をかけ、情報交換を行いましたが、だれもが危機感を持っているものの解決する手立ては持っていません。それなら「自分で創(つく)り出そうと思いました。それがリノベーションです」。
吉原さんはまず、最悪の状況にある博多区と中央区のマンションに、異なるコンセプトで改装工事を施しました。「ライフスタイル・デパートメント」のコンセプトでデザインを一掃し、建物の古さを逆手に取り、その味わいを前面に出す。漆喰や自然素材にもこだわりました。
文化を創ることから
部屋を作っても「お客様」が必要です。普通の賃貸情報では「築年数と広さ・間取り」が基準となってしまいます。そこで、「リノベーション」という文化を市場に提案し、その文化が受け入れられれば、借り手はつく、と考えました。
ターゲットは感性豊かな顧客を有するインテリア、ファッション、家具の業界で、30歳代の女性としました。経費は掛けられないことから、フライヤー(ハガキ大のパンフレット)を配布。やがて反響が表れ始めました。「実はこういう提案を待ち望んでいる人がいると確信しました」と吉原さん。
口コミで広がり、地元新聞社をはじめ多くのメディアが取り上げるようになり、ホームページのアクセス数も上がっていきました。「貸ビル業」から「空間サービス業」への変化は、「経営革新」の始まりを意味するものでした。
冷泉荘プロジェクト
次に、博多区・冷泉荘、築50年、20部屋のビル1棟のリノベーションに取りかかりました。
廃墟寸前の建物を、各部屋違うコンセプトデザインで入居者が創るものにしました。上川端という歴史と文化を背景にビルを見事に甦(よみがえ)らせ、1つの街づくりの提案をしました。
入居者はファッション系、小物のショールーム、隠れ家的居酒屋と多岐にわたります。「オンリーワンの建物にオンリーワンの入居者の方に利用していただく、それができる会社を目指しています」。
この冷泉荘プロジェクトは3年限定で、3年経つと、今の入居者は一斉に退去する契約です。「コンクリート強度の兼ね合いもあるので、あと3年、この冷泉荘という舞台で新しい人たちとパフォーマンスしてみたい」と吉原さん。今では、県内のみならず、東京・大阪からも見学に来るそうです。
古いビルの光るものを演出
賃貸におけるリノベーション事業は、大量の情報とノウハウ、そして少なからぬ資金が必要なため、追随するビル事業者が出てきません。「業界を確立するためにも、同業者が出てきてほしい」と、ビル再生をコンサルタントする新会社をつくり、行政の「街づくり事業」の一端も引き受けています。
「ビルを愛するオーナーさんの『思い』を大切にしたいと思っています。古いビルは必ず『光るもの』があります。それを演出するのが私たちの仕事です」。
入居希望者が殺到
現在は、中央区・薬院京屋ビルの7階建て1棟のリノベーションに取り組んでいます。創業80年のマネキン会社の本社が入るビルです。ゼネコンが建て替えを提案する一方、吉原さんは小さいころから見ていたこのビルを存続させ、30年後もこの地のランドマークにしようと提案し、受け入れられました。
吉原さんが総責任者となり、この案件に最高にマッチする設計者と協働仲介者を選定し、耐震補強のうえ、飛び切りのリノベーションを施し、最高の入居者を選びます。工事中でありながら入居希望者は殺到、現在面接を繰り返しています。なお、入居者が入らなかった場合のリスク負担を吉原さん側がするとの1項も契約書に盛りこんでいます。
空間提供のプロ集団
同社の強みは、「研究開発型」会社だということです。入居者が満足する空間を提供できるプロ集団であり、得意な分野でネットワークを持つ社員の集まりです。
「小規模集団でないと機能しないというのが、私の持論です。変化に対応するには身軽なフットワークが必要だからです。目指すは大学院のような会社。教授(社長)がのんびりしていても、学生(社員)が優秀で、良い研究をしてくれれば、結局教授が褒められますから」と、笑いながら話してくれました。
会社概要
設立 1965年
資本金 500万円
年商 1億3000万円
社員数 6名
業種 賃貸不動産の経営管理、空間デザイン
所在地 福岡市中央区大名2丁目
TEL 092-721-5530
http://www.tenjinpark.com/
「中小企業家しんぶん」 2008年 10月 25日号より