中同協設立40周年を希望の年に
米国発の金融恐慌は世界中を席巻し、とりわけ輸出依存型の日本経済に手痛いショックを与えました。金融機関の貸し渋りによる中小企業の資金繰り悪化、大手企業を中心とした雇用の削減も消費低迷、生活不安を増大させています。2009年を迎えるにあたり、(1)情勢をどうみるか、(2)経営課題の重点、(3)同友会運動のあり方を中心に新春座談会を組みました。
出席者
鋤柄 修氏:中同協会長/(株)エステム会長(愛知)
田中信吾氏:中同協副会長・兵庫同友会代表理事/日本ジャバラ工業(株)社長(兵庫)
佐藤元一氏:中同協常任幹事・宮城同友会代表理事/(株)佐元工務店社長(宮城)
[司会]
広浜泰久氏:中同協幹事長・千葉同友会代表理事/(株)ヒロハマ会長(千葉)
[1] 2009年、底打ち読めないが冷静に対処
経営指針づくりを柱に、中小企業憲章制定運動を進めよう
司会(広浜) 新年おめでとうございます。かつてなく厳しい経営環境のもとでの幕開けとなりました。米国の金融破綻に端を発した不況の大波は、全世界を覆い実体経済を縮小させています。中小企業の倒産、廃業も続出しています。
こうした中で、まず今年の内外情勢をどう見るのか。3人の方が属する業界の現状と、鋤柄さんには東海地方と全国の状況、佐藤さんには中小工務店の立場から、また田中さんには国際的な動きもお話しください。
不況対応力をフルに発揮
鋤柄 日本の上下水道は、上水道99%、下水道73%の整備が終了し、あとはメンテ業界としての仕事があるのみです。メンテは民間への委託が進んでいますが、自治体財政のひっ迫から、コスト削減圧力が増し、採算割れが生じています。しかも、数年前からこの分野にフランス資本が参入し、国内外の受注合戦が展開されています。
東海地方は、リーマンショックをまともに受け、米国ビッグスリーに象徴される自動車産業のリセッション、トヨタの減産体制が大きく影響しています。かつての「元気の愛知」はどこに行ったのか。どこで底を打つのか読めないのが最大の不安です。
全国を回りますと、地方は良くない状態が続いてきたので、まだ不況対応ができる力があるのではないかという気がします。地方から頑張ってほしい。日本は米国に次いで、GDP世界第2位です。依然として経済大国なのですから、悲観的にならず、落ち着いて事態を冷静に見ることが大切です。
仙台もマンション売れず
佐藤 住宅業界は人口減少時代に入り、新築は団塊ジュニア世代が建てるくらいで、どんどん縮小しています。土木も激減し、宮城県建設業協会はこの10年間で会員は約3分の1減りました。仙台とその近郊都市の50年以上の老舗業者で倒産が増えてきています。分譲マンションの販売も不振で、仙台駅から徒歩5分の賃貸マンションに入居させるため、大家が手数料の1~2カ月負担するという話です。建売住宅、宅地の動きも鈍くなってきました。
一方で、住宅ローンのハードルが高くなり、かつては年収の6倍まで貸しましたが、金融機関の警戒感が増したのか、なかなか決済がおりない。負のサイクルとなっています。
EU、中国不況まん延
田中 大手工作機械メーカーではキャンセルが相次いでいます。例えば、1台5000万円の機械300台の受注がフイになる。納期を後ろに延ばすなどの生産調整を始めています。昨年12月初めまでは下請けに仕事が出ていたのが、ピタッと止まっている状態で様子見ではないか、今年から徐々に出てくるのではないかとの観測もできますが、元には戻らないでしょう。
兵庫でも緊急保証制度を利用しようと、保証協会への申込が殺到し、協会の仕事がパンク状態とのこと。金融機関は従来からの取引先に対しても、正常先は問題ないが、それ以外は金利の上積みを要求してきています。
先日、イタリアの取引先に行ってきましたが、EUも相当悪くなってきています。ミラノの北にあるモンザでは目抜き通りのきれいなビルの1階がカラッポ。銀行の支店が閉店したとのこと。日本からの注文が期待されています。
中国も上海から南の方は不景気がまん延、法改正で人件費等の企業負担が増えたこともあり、台湾、韓国系企業の夜逃げが続出しているのは日本でも報道されている通りです。年々増加している大卒者の採用も難しくなるのではないかと言われています。
司会 当社は業務用缶のキャップを製造していますが、やはり20%くらい落ちてきた感じがします。
[2] 経営課題の重点不況期にやらねばならぬこと
自社の教育・訓練の見直し、経費節減の徹底を
司会 では、2009年の経営課題をどう確立するか、同友会での学びあい活動を強化する視点からお話しください。
快適生活環境創造業に徹する
佐藤 昨年、当社は創立30周年を迎え、31期は改革の年と位置付け社内改革に取り組んでいます。
官と民との受注比率は現在2対8、10年前はこの逆でした。地元密着の工務店として、「大型ダンプ」とは違う「軽トラ」路線できましたが、よりお客様に近づくために営業、設計、工務部を営業部1本にまとめ、若返りをはかり、スピードある対応ができるよう改革を進めています。「1回のお付きあいが一生のお付きあい」となるよう「快適生活環境創造業」に徹する。昨年は煙・火災探知器を3000個売り、生ゴミ処理機などエコ関連の商品もお客の要望に応(こた)えて販売しています。
同友会在籍32年、私の同友会人生が本物であったかどうかが今、問われています。金融機関は経営改善計画を作れるかどうかで融資の判断をします。それには経営指針が必須です。残念ながら、まだ会員の2割しか経営指針を持っていません。「指針づくりの運動は世直し運動でもある」との強い姿勢で臨まなければなりません。
震災後「準備してきた10年」
田中 当社は9月決算で、8月に課長以上の1泊研修、9月に主任以上の研修を行いましたが、思い切った下方修正を試みました。20%減、30%減をシュミレーションするのです。どういう状態になるか数字でわかる。では各部門はどうするか。大震災以来10年かけて財務体質の強化を図ってきました。他社より長い期間耐えられるか「準備してきた10年」なのです。
今考えていることは、教育、訓練の見直し、採用基準の引き上げ、経費節減の徹底。2月に新工場が完成するので、テスト機を並べて3年後を見据えた新技術の開発に取り組む。逆にチャンスと捉(とら)えようということです。
不況期は人材獲得のチャンス、将来への人材投資を
鋤柄 当社も、中堅以上の1泊研修で世の中の変化に対してアンテナを磨く努力をしています。それには経営指針書がベースです。
同友会らしい指針の実践は、「労使見解」にあるように社員の意見に耳を傾ける経営者の姿勢です。再度、「労使見解」の学習運動を提起したい。昨年11月、滋賀で開いた中同協主催の「人を生かす経営全国交流会」は実にタイムリーな企画でした。
今後大企業の人員整理が加速し、雇用問題が深刻化します。中小企業は「不況期こそ人材獲得のチャンス」と1人でも多く新卒を採用し、将来への人材投資を進めるべきです。
[3] 地道にねばり強く会員増強を進めよう
経営指針づくりの運動は、世直し運動という姿勢で
司会 本年は中同協設立40周年を迎えます。歴史の教訓を踏まえつつ、新たな前進をめざすために、それぞれの抱負を語ってください。
地域からあてにされるか、覚悟決めて
田中 中小企業はあと3カ月もつか、半年もつかの瀬戸際に立たされている企業も少なくないはずです。
兵庫同友会では12月20日に「経営危機を突破するための緊急勉強会」を開き、経営指針下方修正のシュミレーションを行いました。経費の内訳を吟味し、出血を食い止め、攻めを考える。会外からの希望者にも参加を呼びかけ、地域からあてにされる同友会の存在価値をアピールしたのです。
全国どこの同友会も、中核となる人が地域、自治体からあてにできるかどうか厳しく見つめられています。お互いに覚悟を決めて頑張ろうではありませんか。
雇用と暮らし守り、東北6県の連携を
佐藤 昨年11月のフォーラムでは緊急の金融対策や中小企業特命大臣を置く提言をアピールし、12月には全政党との懇談会も実施しました。中小企業憲章と中小企業振興基本条例づくり、会員拡大をセットで取組み、2000名会員達成を目標としています。
地域の雇用と暮らしを守るために共同求人活動に力を入れ、第1次産業の振興では共通性のある東北6県の連携を強化することも重要課題として位置づけています。
憲章・条例制定運動通して、地域を元気に
鋤柄 経営指針づくりは各同友会の運動の柱であり、もっと深め、多くの会員に広げていかねばなりません。憲章運動も「憲章レポート」作成は指針づくりと密接にかかわっています。本年は憲章草案を発表し、見える憲章にしていきたい。条例も各地の運動が進んでおり、会員が他団体と連携しリーダーシップを発揮してきています。条例運動を通じて地域の経済を元気にする力となっていきましょう。「雇用を守ろう」、これは声を大にして訴えたい。
運動の強化のために事務局の役割は大きく、この面の改善にも中同協として力点をおいていきたいと決意を新たにしています。
司会 最後に5万名推進本部長として、どんなに環境が厳しくとも同友会活動を地道に粘り強く推進することが、増強に成果をあげる確実な道であることを強調したい。
多くの経営者が同友会からの呼びかけを待っています。その期待に応え、たくましく前進を続け、中同協設立40周年にふさわしい希望の年としましょう。
「中小企業家しんぶん」 2009年 1月 5日号より