ものづくりの課題解決で市場創造~日本フッソ工業(株) 社長 豊岡 敬氏(大阪)

新規で成長の期待できる産業の課題にこたえる開発型企業~生産設備のフッ素樹脂コーティングで世界一めざす

 中小企業が主役となり、日本経済を再生していく道を探る「業界直撃レポート」。6回目は、フッ素樹脂コーティングで世界一をめざす日本フッソ工業(株)(大阪同友会会員)を、大阪同友会創立50周年記念フォーラム(2008年9月)での分科会報告より紹介します。

「下請けにならない」―自立型として創業

 日本フッソ工業は、さまざまな生産設備へのフッ素コーティングを事業内容としています。父親が1962年に創業しました。創業当初より、下請けにならざるをえない厨房製品や家電製品、自動車などの仕事はせず、「めざせ世界一」を掲げ、製造業の生産設備に特化してきました。

 60年代は軽工業用として、くっ付かない用途でフッ素樹脂のコーティング技術を生かし、80年代になると、重化学工業用として、薬品に侵されない用途でのコーティング技術を生かしてきました。石油プラント・製紙・医薬品機械など耐蝕・防食用のコーティングが求められた時代に、同社では日本最大の乾燥炉をもち、陸上輸送できる大きさのものなら唯一できたことで、業容拡大の時代でした。

 2000年代は半導体・ファインケミカル用として、不純物が出ないためのコーティング技術を生かした時代。重厚長大の時代から空洞化が進み、ナノテクの時代に入って不純物がでない技術が求められる時代に対応してきています。

 現在では、年間の取引先数が3200社ほどあり、毎年入れ替わります。ものづくりの会社であればすべて潜在的なお客様だと思うぐらい、広範囲にわたっています。

中小企業ならではの研究開発

 最初は研究や新商品開発部門はありませんでした。原料メーカーで優秀な研究がなされており、中小企業が研究室をもって研究員をかかえるのはコストがかかるからです。

 しかし、テープレコーダーやビデオデッキが売れる時代になり、何とか市場に参入したいと思いましたが、フッ素の静電気をため込んでしまう性質から、有機溶剤を扱う分野では危ないと、なかなか取引してもらえませんでした。

 「帯電防止型の材料をつくってください」と原料メーカーに要望しましたが、「市場規模がある程度の大きさでないと開発テーマにできない」と断られてしまいました。仕方ないので、自社開発に踏み切りました。その結果、NF004ECという帯電防止型グレードを開発できました。これは爆発的に売れました。今でこそ各原料メーカーも帯電防止型のグレードをラインアップしていますが、この分野では日本フッソ工業がパイオニアという地位を築いています。

 こうしたことから、自社で研究開発することは重要だとわかり、研究開発に力を入れることになりました。

 大企業には優秀な研究員がたくさんいます。でも大企業の戦略として、より大きな市場を意識した研究開発をおこなうのは当然のことです。それに対して中小企業は小回りが利いて、大企業では対応ができない市場ニーズに応(こた)えることができます。自社の強みとして中小企業なりに研究開発をもつ意味はあるのではないかと思います。

「戦わずして勝つ」

 私が社長になったのは10年前の35歳のとき、同友会に入ったのが38歳のときです。入会時、社員数が約55名、直後の決算は年商が約15億、赤字でした。昨年度は37・3億、利益も10数%計上することができ、社員数も倍に増えています。私自身も同友会で学ばせていただいたことが今日につながっていると思います。

 印象に残っているのは、エバオン(株)の前西社長に「戦略とは戦いを略すと書く、つまり戦わないで勝つこと」と教わったことです。中国の古典・孫子の兵法にある考え方です。

 では、戦わずして勝利するにはどうすればいいのか。私たちは、競争相手のいないマーケットにいくことを考えました。新規の産業で成長の期待できる業界にはものづくりの課題があるはず。その課題を解決できれば、同じ問題をかかえた同業者に課題解決の仕組みをもって一気に水平展開がはかれ、当面はその業界において独占的な市場が得られるのではないか、と考えました。

複数のオンリーワン分野を確立

 日本フッソ工業では、実際にいくつかのマーケットで、オンリーワンの地位を手に入れてきました。第1は、半導体シリコンウエハーの洗浄装置の分野です。

 今後、市場は拡大していくだろうと、半導体業界をターゲットに考えました。この業界では、装置メーカーが設備関係のイニシアチブを握っていることがわかり、展示会を通じて装置メーカーとの接点に力を入れました。業界の事情がわかるとともに採用されることも増えてきました。

 シリコンウエハーの洗浄装置は日本の2社で世界の9割近いシェアがあり、その2社とも当社がかかわっているので、世界のかなりの部分にかかわっていることになります。

 第2は、液晶の分野です。

 先ほどの半導体での成功は、フッ素は不純物がなくピュアであるという高純度性が武器になりました。ところが液晶では、半導体ほどの高純度は必要ないということで、私たちも半ばあきらめかけていました。そのとき、営業社員が液晶業界は静電気の問題を抱えているという情報をつかんできました。

 ガラス基板を次の工程にまわすときにバキュームで吸わせて搬送するのですが、ガラスを上げるときにその下のステージとの間で剥離帯電が起き、静電気が発生する。それがガラスを割ったり回路を破壊するということで、歩留まりが悪い状態でした。そこで、ステージにわれわれの得意とする帯電防止型のフッ素をコーティングしたところ、歩留まりが向上する結果となりました。

 2004年度にADY賞フラットパネルディスプレイで優秀賞を受賞し、このPR効果で韓国、台湾でも採用されることになりました。この分野でもオンリーワンになっています。

 幸い半導体、液晶でオンリーワンとなりましたが、いずれ他社も力をつけてくるでしょうし、イノベーションが進むことによって、ものづくりのやり方が変わり、市場そのものが消えてしまうことも考えられます。リスク分散の意味でも、戦わずして勝つオンリーワンの分野をいくつも創っていくことが重要だと考えています。

会社は社員の活躍できる舞台

 日本フッソ工業の社員は、学歴も能力も高く優秀です。社長の役割は自分が舞台で踊るのではなく、社員が活躍できる舞台を用意することだと思います。社員教育は、OJTを基本に考えています。潜在能力を引き出すために、課題を与えてチャレンジできる環境を整えてあげることです。

 マンネリ化せず、新しいチャレンジができるよう、ジョブローテーションという人事異動をしばしばおこなっています。営業から製造、技術から経理、という異動も当たり前になっており、社内で埋没していたかも知れない社員が、チャンスを生かして活躍する事例が生まれます。

 私の夢の1つは、われわれが開発した環境に優しいプライマーを世界に広げていくことです。プライマーとは、フッ素樹脂と母材をくっつける接着剤のようなもので、従来型のプライマーは必ずしも環境に優しいとはいえないものでした。

 環境面と性能面を充足するようなプライマーの開発を原料メーカーさんにお願いしたのですが、なかなか動いてくれませんでした。市場が小さく、研究テーマになりにくかったのでしょう。そこで、今回も自社開発しました。発明協会から表彰もうける優れものです。特に環境は国境がない問題ですから、全世界に広げていきたいと思っています。

 もう1つは、社員の給料をできる限り上げ、いつの日にか大企業に負けないような給与が支払える会社にしていくという夢です。

 最後は、やはり世界一です。世界一の定義はいろいろありますが、お客様から「日本フッソ工業は世界一」と評価され、言われる会社をめざしています。

会社概要

創業 1964年
設立 1966年
社員数 105名
資本金 3500万円
年商 37億3000万円(2007年度)
業務内容 各種生産設備へのフッ素樹脂コーティング/米国デュポン社テフロンコーティング指定工場
所在地 大阪府堺市美原区木材通
TEL 072-361-3391
http://www.nipponfusso.com/

「中小企業家しんぶん」 2009年 5月 15日号より