白書に問われる政策評価と時代認識

~『2009年版中小企業白書』を読んで

 今回の中小企業白書(以下、白書)の副題は、「イノベーションと人材で活路を開く」です。白書を読んで、気づいたことを以下に列記します。

 第1は、今般の急激な世界不況を反映して、かつてない危機感に彩られた景況分析となっています。急速に悪化する直近の統計資料を示しながら、「かつてない厳しい状況」「全ての業種が総崩れの状態」などと結論づけ、「白書らしくない」表現が印象的です。

 第2に、厳しい情勢認識を踏まえ、中小企業の活路をイノベーションと人材に求めてテーマを設定しており、的確に照準があてられています。ただし、豊富な統計データを駆使して分析しているわりには、その結論は「当たり前」のことを言っているにすぎないことが多く、ものたりなさを感じてしまいます。

 とはいえ、第3には、興味深い分析もあります。特に、中小企業の経営者側と従業員側の認識のギャップについての分析は読みどころ。例えば、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する調査では、自社の従業員は仕事と生活の調和が取れていると考えている割合が経営側で高くなっており、従業員側の認識とギャップが生じています。経営者にとっては耳の痛い指摘ですが、重要な視点です。

 第4に、ミスリードと思われる強引な結論づけもありました。例えば、賃金体系について年功序列と成果給の二者択一のアンケート結果をもとに、中小企業の正社員は年功賃金の要素が小さく、相対的に成果主義的な性格が強いとしています。しかし、2005年版の白書では、「中小企業の賃金制度の基本は職能制であり、職能を規定する大きな要因は『当該企業での勤続年数』で」、中途採用者が多いことから、「実際には勤続年数は短く、『結果としての賃金の年功カーブ』も傾きが低いものとなってきた」と分析していますが、こちらの方が正確に中小企業の状況を述べています。

 第5に、1999年の中小企業基本法改正から今年で10周年であり、この10年間の改正基本法と中小企業政策の検証と総括が必要となっていると考えますが、今回の白書で一言も触れていないことは不可解です。この10年で、日本の事業所数は企業ベース(会社数+個人事業所数)で、約90万社も減少しました。近年の白書は、このような問題に開廃業率や倒産リスクなどから分析はしますが、政策の効果や評価から接近することはなく、一貫して行政としての自己分析的な観点がありません。

 最後に、中小企業の活路の先にある時代認識を示してほしいと思いました。昨年、経済産業省産業構造審議会から『知識組換えの衝撃』という報告書が出され、オープン・イノベーションなど提起しています。今回の白書でもこの問題意識を受け止めていると推察しますが、今の経済危機の後を見通し、転換期にある時代認識を示すようなスケールの大きさを求めることはないものねだりでしょうか。

 なお、今回の白書の事例では、会員企業が3社紹介されています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2009年 5月 15日号より