当たり前のことをまずやる 株式会社アメディア 社長 望月 優氏(東京)

経営理念は継続して深めていく先に社員との共有がある―常に社会を「バリアフリー」の方向に

 (株)アメディア(望月優社長、東京同友会会員)は、視覚障害者が書籍やインターネットなど、社会に流通している情報を得たり、自分から情報を発信するための機器やソフトウェアを開発しています。

視覚障害者が始めた視覚障害者のための会社

 創業者で社長の望月優氏は自身も全盲で、1987年に視覚障害者向けのパソコンのサポート販売から事業をスタートしました。

 創業2年後に1人目の社員となる視覚障害者を雇用します。その後、徐々に社員数も増え、91年には米国からの点字プリンターの輸入販売を開始し、96年に印刷物を読み上げるパソコン用のソフト「ヨメール」を発売し、97年の売上は2倍に成長。98年には『日経最優秀製品サービス賞』を受賞します。

 会社の成長とともに会社を拡張していきましたが、売上が伸びず、赤字状態が一気に拡大し、体質化してしまいます。2002年に同友会に入会した頃は、助成金なしには運営できない「1輪車操業状態」でした。

会社は赤字続き経営指針1泊の衝撃

 同友会入会は、2002年の第11回東京経営研究集会で障害者問題委員会担当の分科会の報告者を引き受けたことがきっかけでした。当初は障害者問題委員会の活動に参加する目的が中心でしたが、翌年、文京支部の経営指針1泊研修に参加したことで、経営を学ぶ場として同友会に積極的に参加するようになりました。

 当時のアメディアは毎年赤字続きで、持ってきた3期分の決算書の分析を行いながら浮び上がる自社の実態に、今までの自分の財務管理の甘さを痛感し、大きなショックを受けました。経営理念は入会前からすでにあったものの、財務管理が甘い経営体質を大いに反省しました。

 それ以後の望月氏は、豊島経営塾や本部の経営基礎講座、経営指針成文化セミナー、各支部で開催される例会等に意欲的に参加し、学んだことを自社に取り入れていきました。

 望月氏が講座で勉強する際は、主要な資料は事務局からテキストデータを送り、それを音声メールソフトで読み上げて予習し、当日は点字プリンターで打ち出して持参します。講義中のメモは点字も表示でき、電子データで保存ができる「ブレイルメモ」で行っています。

 衝撃を受けて帰ってきた望月氏がまず初めに取り組んだのが財務管理です。月次試算表を作り、経費削減ができるところを検討する。変動損益計算書の考え方を理解し、売上と固定費と利益のバランスを把握する。勉強の後に立てた予算は期末にぴたりと結果が合うようになりました。

 財務管理は会社経営の基本の「キ」。今までできていなかったことをきちんとやるようにする。これだけで財務体質が改善し、数年前から黒字を出せるようになりました。

 最近では「目標利益計画書」をつくり、目指す利益をきちんと出せるようにしていきたいと考えています。また、このような取り組みを通じて、社員にも売上目標に対する意識が生まれ、「平成20年度新宿区優良企業表彰」で「地域貢献賞」を受賞しました。

自分が変わり、社内も明るく

 財務体質の改善のほかに取り組んだのが、社長自身の改革です。望月氏は今まで「努力」を重視し、「明るさ」はあまり重視していませんでした。社員に対しても、できていないことを厳しく指摘することが多く、社内での会話は仕事の邪魔になる、という考え方でした。そのため、社員にとっては社長との面談は喜ぶべきものではなく、会話の少ない会社でした。

 しかし、あるセミナーで、「普通のことに感謝する」という考え方に出合ったことや、同友会の例会で聞いたある経営者の経営体験を聞き、苦しい顔をしながら努力する生き方ではなく、穏やかな心の状態で前向きに生きていきたいと思い、「ニコニコしながら努力しよう」と決心し、会社の朝礼から障害者委員会でのあいさつにいたるまで、それを実践しました。

 社内では「突如として人格が変わったように明るく振る舞う社長に社員は戸惑ったかも」という望月氏。「わからないことは人に聞く前にインターネットの“グーグル”で調べるように」と言っていた以前の言を翻し、社員同士で気軽に質問をしあい、チームワークを大切にするようにと呼びかけました。

 この時期に経営基礎講座で学び、すぐに取り入れた「成長評価シート」は、それまで社長が行っていた社員の評価や給与の決定を改め、評価項目や基準について社員から意見を募集して、開かれた制度としてスタートしました。

 このシートは年2回、各評価項目について社員本人と直属上司、社長の評価を行うもので、年4回の面談は、社長と社員がコミュニケーションを取るよい機会となっています。面談では今までとは反対に、社員の良いところについての話を中心にしています。社員の能力を過小評価していた頃と比べれば、製品開発のスピードも速くなったと望月氏は振り返ります。

経営理念は常に深めていくもの

 経営指針成文化セミナーは2006年に参加して以来、その後はサポーターとして参加しています。「経営指針成文化セミナーで一番学んだこととは?」との質問に、「理念を深めるプロセスがとても勉強になりました」と答える望月氏。

 経営理念は、文章を変えても変えなくても、理念そのものへの理解を深めていくことが大事で、磨き続ける作業の中に社員との共有が実現するとのことです。「セミナーは経営理念を毎年振り返る機会になり、やめられない」と言います。

 昨年は副社長と社員が成文化セミナーに参加しました。副社長にとっては、社長の考えていることを自分なりに咀嚼(そしゃく)し、考えを深める機会になったようです。

 昨年行われたアメディア創立20周年記念パーティーでは、アメディアの20年のあゆみを振り返りながら、次の10年の目標を発表しました。このパーティーは社員が企画を考え、会社への愛情がこもった手作りの会となりました。1人で創(つく)った会社から、みんなの会社へ、一歩一歩近づいていっています。

 東京同友会の障害者委員会委員長として、昨年開催された第14回障害者問題全国交流会の実行委員長を務めました。さらに、支部の例会委員長、中小企業憲章制定推進本部にも籍を置き、会社経営と同友会運動を両輪に実践する中で、社会を「バリアフリー」の方向へと進める望月氏の活躍が期待されます。

経営理念

 情報とテクノロジーで障害者の自立支援!
 私たちは、情報とコミュニケーションで人々がつながり、技術と交流で障害者 が自立できる環境づくりを促進します。

会社概要

創業 1987年
資本金 4,000万円
業務内容 視覚障害者が活字やインターネット内容を音声で読み上げることで情報を得ることができる商品の開発ほか
社員数 12名(内、女性3名、障害者3名)
所在地 東京都新宿区西早稲田
TEL 03-5286-7511
http://www.amedia.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2009年 7月 5日号より