なぜフランスで起業ブームなのか

欧州小企業議定書が不況打開の切り札に!

「フランスで起業が急増している」という小さな記事に目が留まりました(「日本経済新聞」2009年7月27日付)。

今年1~6月の起業は27万1896社。半年で5年前(04年、26万8000社余り)の水準を超えました。同紙は、「社会保険料減免などの優遇策が効果を発揮したほか、厳しい雇用環境が影響しているとの見方もある」と分析しています。

実は、フランスは先進国の中で日本と同様に事業所数が90年代から減少傾向にありましたが、2000年代初頭から歯止めがかかり増加に転じたという経緯があります。2002年からの起業推進政策(1ユーロ起業の認可、申請書の簡略化、補助金支給等)が功を奏していると言われています。

この政策が実施された背景にはEUのヨーロッパ小企業憲章の制定があることは間違いありません。

もっとも、今年になって例年の5割増の起業ブームとなったわけがあります。1月から導入された「個人事業主制度(AE)」の効果。これで、税や社会保険料を取引額に応じて支払うなど負担が減ったり、ネットで簡単に企業登録ができるようになりました。

このように、世界同時不況で欧州経済も苦境にありますが、中小企業の活性化に力を入れて経済危機に対処しようという姿勢がうかがえます。事実、EUは昨年12月、ヨーロッパ小企業憲章の法的枠組み・拘束力を強化するためにSBA(欧州小企業議定書)を採択(翻訳は『THINK SMALL FIRST(中同協・中小企業憲章ヨーロッパ視察報告集)』に所収)。

同じ12月に開かれた「経済回復計画」討議のための欧州理事会は、SBAのアクションプランを全面実施する旨を合意。SBAは、単にEUの中小企業政策と事業環境整備を加速推進するにとどまらず、経済危機打開の切り札の1つという役割を担う位置づけになっています(三井逸友「今日のEU中小企業政策とSBA小企業議定書」『中小商工業研究』第100号)。

また、予算面では例えば、EUの地域政策の中で、地域をより競争力のあるものにする結束政策で中小企業は最優先事項に位置づけられ、2007~2013年における事業資金の半分、270億ユーロ(約4兆5360億円)が中小企業支援に充当されます。

その他、ネットワークの構築やクラスター形成への支援など中小企業への集中的な支出支援が実行されています(「地域振興における中小企業の役割~日欧の現状と課題」商工総合研究所)。

一方、フランスが事業所数の増加に転じたことで、先進国で唯一減少傾向に歯止めがかからない日本はどうでしょうか。直近の「事業所・企業統計調査」(総務省)によれば、企業ベース(会社数+個人事業所数)では、約421万社(2006年)であり、10年前に比べて89万社(17・5%減)も減少しています。

大不況を克服し、健全な日本経済の発展を図るために、中小企業憲章制定と強力な中小企業政策・予算が今こそ必要です。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2009年 8月 15日号より