なぜ日本に中小企業憲章が必要か

改めて憲章の議論を深めよう

 今回の総選挙では、民主党や共産党、社民党、みんなの党がマニフェスト(選挙公約)の中で「中小企業憲章」制定を掲げました。民主党が圧勝したことにより、中小企業憲章制定や中小企業担当大臣の設置が現実味を帯びてきました。

 中小企業家同友会全国協議会(中同協)は、2003年の定時総会において中小企業憲章の制定を活動方針に掲げ、毎年の「国の政策に対する中小企業家の要望・提言」において憲章制定を国や各政党に要望してきましたが、6年が経過し、ようやく実現の可能性が見えてきました。今後、与野党を問わず、すべての国会議員が中小企業憲章制定の意義をよく理解し合意する丁寧な取り組みを期待したいと思います。

 私たち同友会では、まず、「中小企業憲章草案(第1次案・会内討議資料)」(本紙6月15日付)を会内でしっかりと討議・学習していきましょう。また、条件のある同友会では、「会内討議資料」であることを断った上で、地域の自治体や中小企業団体などと「憲章草案」についての懇談や学習の場を設定することも憲章の取り組みに弾みをつけます。自治体首長との懇談では、「地域版の中小企業憲章をつくろう」と話が弾んだ事例も出ています。

 このような取り組みを進める際には、取り組みの原点である「なぜ、中小企業憲章が日本に必要なのか」について、改めて議論を深めることが大切です。中小企業憲章の必要性については次のような論点が挙げられます。

 第1に、中小企業が発展することがなぜ必要か、中小企業を行政が公的に支援することがなぜ必要か、などの合理的根拠を国民に問い、その根拠を中小企業憲章という形で明示することが求められているからです。

 例えば「中小企業庁設置法」では第1条で、「健全な独立の中小企業が、国民経済を健全にし、及び発達させ、経済力の集中を防止し、且つ、企業を営もうとする者に対し、公平な事業活動の機会を確保するものである」と簡潔に中小企業の活躍の意義を述べています。中小企業憲章では、経済面に加え、地域、社会、文化等からも中小企業の意義を明らかにします。

 第2に、中小企業の存立条件の急速な悪化をくい止め、国民経済の健全な発展のためには中小企業の存立基盤の再構築に取り組むことが急務の課題となっており、中小企業が元気になって草の根から危機を打開していく展望を示し、行動を呼びかける旗印としての中小企業憲章が必要となっているからです。

 第3に、日本経済が量的成長(豊かさを求めて)から質的成熟(幸せを求めて)の時代への転換期にあり、個性に見合った商品・サービスを提供できる中小企業が主役として活躍できる舞台が整ってきており、その活躍のためのシナリオとして中小企業憲章が必要となっているからです。

 第4に、日本は先進国の中で唯一、事業所数が大幅に減少していますが、豊穣な創業の環境を創造するために、中小企業経営が安定し発展する条件を整備するとともに、企業経営を担い社会に貢献する働き方は尊いことであるという認識を広げることが必要であり、中小企業憲章がそのような認識を醸成するものとなるからです。

 第5に、日本社会にある中小企業への根拠のない偏見や認識不足を払拭(ふっしょく)し、国民の中小企業に対する正しい認識を育むために、国民的合意をめざす中小企業憲章が有効であるからです。

 豊かな実りの収穫をめざし、憲章の新しいタネを蒔(ま)くときは今です。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2009年 9月 15日号より