量産よりも魂込めたものづくり ~(株)千田精密工業 社長 千田 伏二夫氏(岩手)

自立して生きる人間を育てるのが企業の責任

 (株)千田精密工業は、単純加工の大量発注は受けず、難易度の高い非鉄金属加工を専門にする熟練技術者集団として、経済産業省の元気なモノ作り中小企業300社にも選定されました。現在、岩手同友会では、県南部に支部を設立しようと奥州前沢地域準備会例会を開催しており、2月22日には、4回目となる例会が同社会議室で開かれました。

難易度の高い注文に挑戦する社風

 1カ月の精密金属加工、試作品の発注個数は、3500個。岩手県奥州市前沢区の(株)千田(ちだ)精密工業(千田伏二夫社長、岩手同友会会員)は、少量多品種の精密部品製造を行う専門メーカーです。

 単純加工の大量発注は受けず、難易度の高い注文は断らず社員みんなで挑戦するその社風は「社員一人ひとりが自立した技術者。千田精密工業は技術者集団としてみんなができないこと、他の会社が嫌がる仕事に挑戦する。」という創業時からの理念が背景にあります。

 千田さんが独立したのは33歳の時です。当時岩手の企業では、アルミ、チタン、ステンレスなどの加工難度の高い材料の加工に挑戦する企業はありませんでした。創業時からの技術に挑戦する姿勢に、やがて本格的な試作品の依頼や製造の注文が全国から入るようになりました。

 そして、どんな図面からでも100分の1ミリの精度で仕上げる技術が注目を集めていきます。

元気なモノ作り中小企業に選定

 なかでも1999年にF1のジョーダン・無限エンジンに部品を供給、その年搭載したエンジンで優勝するという快挙は社員に夢を与え、大きく成長させました。世界を相手にした厳しい注文に応えることで技術が磨かれ、熟練技術者集団へと進化していきました。

 2006年には、経済産業省の元気なモノ作り中小企業300社に選定されています。現在は摩擦撹拌(かくはん)接合のライセンスを取得、最先端の金属接合技術を導入したことで航空機産業等への新たな参入も視野に入れています。

地域社会とどれだけつながっていけるか

 千田さんは以前勤めていた企業で業績低迷による一方的な社員の大量解雇があり、社員を大切にしない姿勢に失望し退職を決め、独立しました。

 「自分で考え、自分で判断し、自立して生きる人間を育てるのが企業の責任。人間として生まれた価値に気づいてほしい。」と話す千田社長。社内独立を含めすでに9人の社員が独立、経営を営んでいます。また今年も5人の新入社員を地元から採用し、新たな技術の担い手も育てています。

 「地域社会のどれだけの人たちと一緒に生活できるか、つながっていけるか。そのために事業があると思う。」と話す千田社長。地元から依頼される小・中学校、高校への出前授業には積極的に出かけ「自分の未来に目標ができるとものすごいエネルギーが生まれ、行動に結びつく。夢は必ず叶う。」と熱く伝え続けています。

 また自社に二十代、三十代の後継者を集め、岩手同友会の奥州・前沢支部の設立へ向け、毎月準備例会も開催中です。

 新しい技術への果てしない夢、そして未来を担う新たな技術者がどんどん出る地域づくりへ向け、挑戦は続きます。

会社概要

創業 1979年
資本金 8000万円
年商 14億円
社員数 100名
業種 半導体及び液晶関連装置用部品加工、自動車関連の試作品、特殊パーツ加工、FSW(摩擦攪拌接合)での真空部品加工
所在地 岩手県奥州市前沢区五合田19-1
http://www.chidaseimitsu.com/

「中小企業家しんぶん」 2010年 2月 25日号より